新・美爪通信

 爪に関心のあるすべてのかたに贈る「爪の総合情報ブログ」です。巻き爪、陥入爪など、爪に関することなら何でもとりあげるだけでなく、時には寄り道をして、医学一般の話も加えて参ります。

巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(6) ー そもそも「巻き爪の治療」になっていない

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 長いこと「巻き爪・陥入爪の標準的手術」とされ、今でも全国で(そして世界でも)普通に行われている『鬼塚法』という「手術」について考えてきました。

 『鬼塚法』は、それなりの目的があり、意義らしきものもあるものの、それと同時に様々な欠点があることから一般的にはおすすめできない「治療法」であることがおわかりになったことと存じます。


 しかし、これまで述べてきたことは実は末節であり、

   『鬼塚法』にはもっと根本的な問題がある

のです。それは、『鬼塚法』がそもそも

   巻き爪・陥入爪の治療手段と言えるのか

ということです。『鬼塚法』は巻き爪・陥入爪を果たして本当に「治している」と言えるのでしょうか? ここに大きな問題があるのです。

 これまでは、半ば意図的にこの問題を素通りして、『鬼塚法』が巻き爪・陥入爪の治療手段の一つであるということにして話を進めて参りました。この方が現状に即していて、受け入れやすいと考えたからです。ですが、『鬼塚法』が真に「治療手段」と言えるものなのかの検証は一切してきませんでした。

 現在『鬼塚法』を施行されている医師は、恐らく

   「そんなことは自明のことだ」

とお考えでいらっしゃるに違いありません。ですが、ここは冷静に考えてみる必要があるのです。

 実は、私は『鬼塚法』を巻き爪・陥入爪の治療法とすることが自明だとは考えておらず、むしろ

   大いに疑問だ

と考えているのです。


 『鬼塚法』が元々、巻き爪・陥入爪を「治している」と言えないものであるとするならば、治療手段としての優劣を論じること自体が無意味と言わざるを得ません。

 そこで、本源に立ち返って、「『鬼塚法』とは巻き爪・陥入爪にどういう効果をもたらすものなのか」から検証し直してみることと致しましょう。


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 まず、巻き爪について検証していきましょう。

 そもそも、「巻き爪」とはどういう状態でしょうか? 

 そうです。「爪が過度に彎曲している状態」のことですね。


 ということは、言い換えれば巻き爪とは

   「爪の曲率が大きくなり過ぎた状態」

となるわけです。

 そうなれば、「巻き爪を治す」ためにはどうすればよいかと言えば、爪の彎曲の程度を軽くすること、つまり、

   「爪の曲率を小さくすること」

こそが本来の巻き爪の治療であるべきなのです。

 持って回ったような言い方をしましたが、話は単純です。要するに「巻き爪とは爪が丸まり過ぎているのだから、それを平たく伸ばせばよい」ということなのです。


 このことから考えれば、ある「治療」が本当に巻き爪を治しているのかどうか評価するには、

   「爪の曲率を小さくしているか否か」

で判断すればよいわけです。

 如何でしょうか? 果たして『鬼塚法』は爪の曲率を小さくしているでしょうか?

 答えは明白です。

 『鬼塚法』は、その術式から考えても、単に爪の幅を狭くしているだけであり、爪の曲率には何の影響ももたらしません。つまり、

   「『鬼塚法』は巻き爪を『治している』とは言えない」

という結論になってしまうのです。と言うよりも、むしろ

   「そもそも『鬼塚法』は『巻き爪の治療』になっていない」

と言わざるを得ないのです。巻き爪とは初めから目的と手段が乖離しているのです。それをむりやり巻き爪の治療法として適用しようとするから数々の問題が生じるのです。


 医師も患者も、そろそろこの単純な事実に気付くべき時です。


 実際、『鬼塚法』などを無理に応用しなくとも、本来の巻き爪の治療法、つまり

   「爪の曲率を小さくする方法」

がちゃんとあるのです!

 皆さんも、ぜひとも目を曇らせることなく、適切な治療手段を見極めるようお気を付けください。


(続く)


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 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

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 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



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巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(5) ー 『鬼塚法』の合併症(後編) ー 爪の幅が狭くなること

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 前回の最後に述べました通り、『鬼塚法』にはどんなにうまく手術したとしても、また、どんなに運がよかったとしても、絶対に起こってしまう「合併症」、つまり

   『鬼塚法』の本質的な欠点


とも言える弊害があります。

 それは何かと言えば、

   爪の幅が狭くなってしまうこと

です!


 ・・・。


   「そんなの当たり前じゃないか」

   「今さら何を言ってるんだ」

といった声が聞こえて来そうですね。

 そうなのです!!

 『鬼塚法』という「手術」とは「爪の幅を狭くする手術」なのですから、受ければ爪の幅が狭くなるのは

   当たり前

です。まさにそのための「手術」なのですから。だからこそ、絶対に避けられない結果と言えるのです。


 では、「爪の幅が狭くなること」がなぜ「欠点」なのでしょうか?

 ここでピンと来ない方には、ぜひともこのブログを最初から一通り読み返して戴きたいと思います。特に、「爪の存在意義」についての記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/11921362.html から)が重要です。

 爪の持つ役割、それを充分に果たすことができるためには何が必要でしょうか? ただ爪がありさえすればよいというわけではないはずです。

 もうおわかりでしょう。

 爪がその本来の機能を発揮するためには、

   充分な幅がなければならない

のです! つまり、爪が残っていても、幅の狭い貧弱な爪ではろくにその役割を果たせなくなってしまうわけです。

 結局、『鬼塚法』が完璧に成功したとしても、爪の幅が狭くなったために

   指先を怪我しやすくなった

   爪が細くなって見てくれが悪くなった

   指先に体重をかけづらくなった

というような「障害」が残ってしまうことになるのです。そして、これはもう如何なる手段を用いても元に戻すことは不可能なのです。こういった「障害」のせいで足の踏ん張りが利かなくなり、スポーツができなくなったり、バレエなどの踊りが踊れなくなったりしてしまう危険があるのです。


 それでも、もし『鬼塚法』以外に治療法がないのだとしたら、まだやむを得ないと言えるでしょうが、現実にはそんな「手術」などしなくても保存的治療でそれ以上の治療効果が得られるのですから、もう『鬼塚法』にこだわる必要は全くありません。


 如何でしょうか? 皆さんはこれでもまだ『鬼塚法』が「標準的手術」と呼ばれるにふさわしいと思われますか? 自分も受けたいと思われますか?

 少なくとも、私は決しておすすめ致しません。

   このような「手術」をしなくても、

もっと痛くなく、効果的に治せる

方法を知っているからです。


 皆さんも、もしこの『鬼塚法』のような「手術」をすすめられていらっしゃるのでしたら、ご決断の前にぜひとも他院にもご相談されるようおすすめ致します。もちろん、私の爪専門外来でも結構です。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(4) ー 『鬼塚法』の合併症(中編) ー 爪の変形

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 前回の記事で、『鬼塚法』には「副爪」という合併症が起こりうることを説明しました。

 ですが、この『鬼塚法』という「手術」には、それ以外にも重大な合併症が起こる可能性があるのです。しかもこれは、どんなにうまく手術したとしても避けられないものなのです。

 その合併症とは、

   爪の変形

です。そして、これは

   「爪縁を切除してしまう」

ことが原因となって生じるものなのです。

 ここで言う「爪縁」とは、爪の根元を下に置いた場合における、左右の縁のことを指します。『鬼塚法』とは、既に説明しましたように、「爪の縁を短冊状に切り取って、爪の幅を狭くする手術」であるわけですから、受ければ必ず「爪縁部が切除されてしまう」ことになります。

 では、なぜ「爪縁を切除する」ことが爪の変形の原因となるのでしょうか?


 正常の状態では、爪縁は指の皮膚と隙間なく密着していて、そう簡単には離れないようになっています。そのおかげで、

   爪縁部から水やゴミが入り込まない

   爪縁から爪が剥がれてくることがない

   爪が爪縁に沿って伸びるため、曲がらずにまっすぐ伸びる


といった利点がもたらされているのです。

 ところが、『鬼塚法』は爪縁を含めた爪の一部を切り取ってしまうのですから、当然、爪縁部は失われることになります。これは、どんなに慣れた術者がどんなにうまく手術したところで避けようがありません。

 そうなるとどのようになるかと言えば、上に挙げた利点が全て失われることになり、すなわち、

   爪縁からゴミなどが入り込みやすくなる

   爪縁から爪が剥げてきやすくなる

   爪が曲がって伸びたり歪(ゆが)んだりしやすくなる

ということになるのです。そして、爪縁部を再生する手段のない現状では、これはもうどんな手術をしても

   元に戻すことは不可能

なのです。


 実際に、『鬼塚法』を受けた結果として、爪が右または左に曲がってしまったとか、爪が浮き上がってしまったとかという実例は少なくありません。『鬼塚法』を爪の片側だけに行った場合には爪が曲がることが多く、両側に行った場合には爪がはがれてしまうことが多いようです。中には、爪が完全に指の皮膚から離れてしまい、斜め上を向いてまるで

   カスタネットのように

なってしまった例すらあります。これでは絶えず短くしていなければすぐに靴に当たってしまって邪魔で仕方がありません。もちろん、爪本来の機能などほとんどないも同然です。


 このように、『鬼塚法』という「手術」は、

   失敗しなくても

運が悪いと爪が変形してしまい、困ったことになる危険があるものなのです。


 これで皆さんにも、『鬼塚法』にはかなりの問題があることがおわかり戴けたことと思います。


 では、爪が曲がったり剥がれたりしなければ「『鬼塚法』はよい治療法」と言えるのでしょうか?

 いいえ、とてもそうは言えません。『鬼塚法』は、例えどんなにうまく行っても、例えどんなに運がよくても、絶対に避けられない「合併症」がもう一つあるのです。そして、これこそが、私が『鬼塚法』を「不適切である」と断言している最大の根拠となるものなのです。

 次回は、この最後の「合併症」について述べることと致しましょう。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(3) ー 『鬼塚法』の合併症(前編) ー 副爪

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 『鬼塚法』とは「爪の縁を短冊状に根元まで切り取って爪の幅を狭くする手術」であると説明しました。また、『鬼塚法』には、巻き爪に対しても陥入爪に対しても「それなりの効果があると考えることもできる」と述べました。

 このように聞くと、『鬼塚法』は一見、なかなか良さそうな治療法と思われることでしょう。ですが、実はそうではないのです。『鬼塚法』には実際には幾つもの欠点があるのです。その欠点とは、「手術」に伴う

   合併症

のことです。

 これから、『鬼塚法』にはどのような合併症が起こり得るのかについて具体的に説明して参りましょう。これを知れば、きっと皆さんも『鬼塚法』を手放しで賞賛する気にはなれなくなることでしょう。


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 『鬼塚法』は「爪の縁を短冊状に切り取る」わけですが、その際には当然、爪母部(爪が造られる部分)をも確実に切除しなければなりません。そうしなければ、残った爪母部からまた爪が生えてきてしまうからです。

 そのために、以前の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/36416428.html)でも説明しましたように、爪母部を取り残さないように鋭匙で掻爬する手順が必要となるのです。説明では簡単に思われたかも知れませんが、実はこれがなかなか難しいのです。

 爪母部というのは肉眼では判別できませんから、「どこからどこまでが爪母か」というのは目で見てもわかりません。ですから、爪母を確実に除去するために、特別の注意を払って広めに切除したりフェノールで腐蝕したりするわけですが、それでも爪母の一部が残ってしまうことが少なくないのです。

 そうなると、爪母の細胞というものはとても「しぶとく」て、少しでも残っているとそこでどんどん爪を造り続けますから、切除したはずの場所からトゲのような爪が生えてきてしまうのです。これを

   「副爪(フクソウ)」

と呼びます。この副爪は切っても切っても何度でもまた生えてきますので、邪魔で仕方がありません。しかもこれはまだよい方であり、爪母がもし皮下に埋もれた状態で残ったりしようものなら、何と

   皮膚の中に爪が生えてしまう

ことになり、痛くてたまらなくなってしまいます。こうなってしまったら切ることもできません。

 結局、このような副爪ができてしまった場合には、再手術をして爪母部ごと切り取らざるを得なくなってしまうことになるのです。


 このように、『鬼塚法』では

    「副爪ができてしまう」

という合併症が少なからず起こってしまうのです。

 「うまく手術すれば副爪は生じない」とする論文もあるとのことですが、どのように「うまく手術する」のかが明確でないため、実践できないそうです。


 如何でしょうか? 『鬼塚法』も必ずしもよいことばかりではないことがおわかり戴けたことと思います。

 では、『鬼塚法』の合併症はこれだけでしょうか? うまく副爪を作らずに「手術」できればそれでよいのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。『鬼塚法』には、いくらうまく「手術」しても起こり得る合併症がまだ他にあるのです。

 次回はそれについて述べることと致しましょう。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(2) ー 『鬼塚法』の「治療効果」

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 前回の記事で、『鬼塚法』に代表される『爪郭爪母楔状切除術』がどのような「手術」なのか大体おわかりになったと思います。

 繰り返しになりますが、現在この「手術」は日本で、いや世界でも、最も「標準的」とされているものなのです。これだけ普及しているからには、この『鬼塚法』にはそれなりの利点、つまり「治療効果」が認められていることになります。

 では、『鬼塚法』に認められている「治療効果」とは如何なるものなのでしょうか? まず仮に、『鬼塚法』支持者の立場に立ってみて、『鬼塚法』を弁護するつもりでその「治療効果」を考えてみましょう。


 まず、巻き爪の「治療」として『鬼塚法』を行う場合について考えましょう。

 巻き爪の場合、爪の幅が広ければ広いほど爪の彎曲の程度はひどくなります。ということは、爪の幅を狭くすれば(曲率が変わらない限り)彎曲の程度は軽くなることとなります。しかも、巻き爪の巻き方によっては、爪の両端だけが特に強く巻き込んでいることがあるため、そういう例では爪縁の一部を切り取ることによって大いに彎曲が改善されるわけです。

 これが、巻き爪に対して『鬼塚法』がもたらす「治療効果」ということになります。つまり、

   「爪の幅を狭くすることによって、爪の彎曲の程度を軽くする」

ということです。


 このように考えてみると、『鬼塚法』は巻き爪に対して充分な「治療効果」が期待できるように思われてくることでしょう。

 では、陥入爪に対してはどうでしょうか? 次にそれを考えてみましょう。


 陥入爪の場合、爪の片端または両端が肉に食い込んでいて、しかも大部分の場合、爪が短すぎていて爪の伸びて行く先が肉によって狭められている状態にあります。

 そうなると、爪の端の食い込んでいる部分を切り取ってしまえば食い込みがなくなりますし、爪の幅が狭くなれば、肉によって狭められたところも引っかからずに通過できるようになる(はず)と考えられます。そうなれば陥入爪は治り、その後の再発も抑えられるわけです。

 これが陥入爪に対する『鬼塚法』の「治療効果」と考えられます。つまり、

   「爪縁の陥入を解消し、なおかつ爪の自然な伸長を助ける」

ということです。


 このように考えてきますと、『鬼塚法』という「手術」は誠に真っ当で、実に理に適(かな)った「治療手段」と思われてきます。皆さんは如何ですか? このように説明されれば、何の疑問もなく納得しておしまいになるのではないでしょうか?

 もし、皆さんが患者としてこの『鬼塚法』をすすめられた場合でも、以上のような説明をされれば拒むのは困難であろうと思われます。「他に打つ手がないほどひどい巻き爪・陥入爪なら、受けてもよいのではないか」と考えても不思議はありません。

 恐らく、だからこそ、この『鬼塚法』はこれだけ広く普及するに至っているのであろうと私は考えています。


 ですが、それでも私はこの『鬼塚法』という手術には

   反対

なのです。

 確かに『鬼塚法』には上で挙げたような「治療効果」がないわけではありません。しかし、同程度の「治療効果」ならば充分に保存的治療で得られますし、『鬼塚法』にはこれらの「治療効果」だけでなく幾つもの

   欠点

がどうしてもつきまとうのです。そして、それらの欠点は実に大きな問題になり得るものなのです。

 次からは、その『鬼塚法』の欠点について説明して参りましょう。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の「標準的手術」:『鬼塚法』(1) ー 『鬼塚法』とはどういう「手術」か

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 これまで私は繰り返し何度も

   巻き爪・陥入爪に手術は不要である

と言ってきました。そして、巻き爪・陥入爪に対して行われてきた「手術」を悉く

   不適切である

と断じてきました。もちろん、それなりの根拠があってのことなのですが、この主張は実は現在の日本で(そしてアメリカを含む世界全体で)一般に行われている「治療」に

   真っ向から歯向かっている

ものなのです。おそらく、皮膚科や整形外科の学会などでこのような主張を繰り広げたら、罵声を浴びるか嘲笑の的になるのは目に見えているのです。

 ですが、私は主張を変えるつもりはありません。手術なしで巻き爪・陥入爪を治せる方法を知っている以上、わざわざ手術をしなければならない理由はどこにもないのです。


 ところが、現在、巻き爪・陥入爪に対して行われる「標準的治療」と言えば、今回からとりあげる

   『鬼塚法(オニヅカホウ)』

という「手術」になってしまっています。この手術は医療保険にも収載され、厚生労働省の「お墨付き」の「治療」という扱いにもなっているため、皆さんが中等度以上の巻き爪・陥入爪のために医療機関を受診したら、ほとんどの場合、この「手術」をすすめられることが予想されるのです。

 それだけ、『鬼塚法』という「手術」は有名であり、「巻き爪・陥入爪の手術の代名詞」と言ってもよいくらいなのです。

 では、この『鬼塚法』とはどういう「手術」なのでしょうか? その利点と欠点はどうなのでしょうか? これから詳しく述べていくことと致しましょう。


 『鬼塚法』とは、正式には

   『爪郭爪母楔状切除術(ソウカクソウボケツジョウセツジョジュツ)』

と呼ばれるもので、具体的には、「爪の片方(両方の場合もある)の一部を切り取り、それと共に爪縁部の皮膚も爪母部も切除して、爪の幅を狭くする手術」と言えます。詳しくは次の論文に公表されています。

   ○ 鬼塚卓也、小島和彦 : Ingrown nail, 爪刺(陥入爪)について. 皮膚臨床、10 : 1215 - 1221, 1968.

 この論文が有名だったため、筆頭著者の名前から『鬼塚法』と名付けられたのです。

 切除後に傷口を縫合するのが『鬼塚法』なのですが、それ以外にも、傷口にフェノールという薬品を塗って肉芽(ニクゲ)の発生を抑える『フェノール法』という「手術」など幾つかの方法があります。ですが、ここではそれらの
「手術」も含めて『鬼塚法』と呼ぶことと致します。


 例によって、文章だけではイメージがつかみにくいと思われますので、改めて図で説明致すこととしましょう。

 まず、下の図1のように

鬼塚法-01

爪の片方の縁を短冊状に切り取り、それと一緒に爪縁部の皮膚と爪母部をメスで切除します。その際に、爪母部の組織を残してしまうと後で爪が生えてきてしまいますので、充分に深く切り取ります。

 そして、図2のように

鬼塚法-02

傷口に金属でできた「鋭匙(エイシ)」と呼ばれる器具を入れて強くこすり、骨の表面の骨膜を削り取るまで掻爬(ソウハ)します。これは、爪母部を完全に取り除くために重要な操作となります。最後に傷口を縫合して終了となります。『フェノール法』では、ここで傷口にフェノールを塗り、アルコールで洗った後、そのまま傷口を乾燥させるということとなります。


 『鬼塚法』がだいたい、どのような「手術」かはこれでおわかり戴けたでしょう。

 では、次に、この『鬼塚法』はどのような「治療的意味合い」を持っているのかについて考えてみることと致しましょう。


(続く)


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漫談 ー インフルエンザを起こさないのに「インフルエンザ菌」とは、これ如何に?

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爪亭八楼(つめてー・やろう):「さあて、小難しい話が続きやしたんで、ここらで一つ漫談と参りやしょう。旦那方もちょいとばかしお付き合いのほどを・・・。

 もう立春も過ぎたってぇのにまだまだ寒い日が続きやすねぇ。昨日なんか関東全体がえれぇ雪で、朝なんかまるで雪国でやんした。まさに『早春賦』の

   『春~は名~のみ~の風の寒さや~♪』

の世界で、まだまだ寒い毎日が続くようでやんすねぇ。こんな寒ぃ日にゃあ、風邪(かぜ)、特にインフルエンザになりやすいから気をつけなきゃいけやせん。旦那方、インフルエンザのワクチンは済ませなさったかい? おぉおぉ結構、結構。


 ところで、ワクチンってぇ言やあ、

   『ヒブ(Hib)ワクチン』

ってぇのもあって、これは子供に髄膜炎を起こしやすい

   Haemophilus influenzae type b(インフルエンザ菌b型)』

って言う細菌の名前を略して呼んでるわけでやんす。

 ここですかさず、

   『ちょおおっと待ったああ!』

と、来やしたねぇ。期待通りのツッコミが。

   『「インフルエンザ菌」ってぇ名前なら、「インフルエンザ」を

起こすんじゃねぇのかい?!』

そうそう、まさにそうでやんすよねぇ。でも、違うんでやんすよねぇ。『インフルエンザ菌』ってぇのは確かに髄膜炎なんかの病気を起こしはするが、インフルエンザは起こさねぇ。インフルエンザは

   『インフルエンザウイルス』

ってぇ言う、細菌よりずーっと小せぇ『ウイルス』ってぇ奴が起こすんでやんす。

 ここで本日のお題と参りやしょう。

   『インフルエンザを起こさないのに

「インフルエンザ菌」とは、これ如何に?』



 実を言やぁ、『インフルエンザ菌』ってぇ名前はそもそも

   間違い

だったんでやんすね。

 昔は電子顕微鏡なんてもんはなかったもんだから、普通の顕微鏡(光学顕微鏡のこと)で見えるものしかわからなかったわけで、細菌は見えてもウイルスなんて小っけぇもんは見えなかったんでやんすな。そんなわけで、インフルエンザ患者から見つかった細菌をてっきり『インフルエンザの原因だ』と思い込んじまって、『Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)』って名付けちまった。ところが後になって、本当はウイルスが原因だったことがわかった。『インフルエンザ菌』って名付けた細菌はたまたま一緒に感染していたってことだったんでやんすね。

 でも、そん時にゃあ、もう『インフルエンザ菌』の名前が定着しちまってて、直しようがなくなってた。そこで、(本当は無関係なんだが)名前にだけ『インフルエンザ』が残っちまったってぇわけよ。


 似たような例は他にもありやして、有名なところじゃ、あの千円札の肖像にもなっている野口英世(のぐち・ひでよ、1876年11月9日-1928年5月21日)の逸話がありやす。

 野口英世は、よく知られているように『黄熱病(オウネツビョウ)』の研究に生涯を捧げたわけでやんすが、その研究の中で、『黄熱病』とよく似た症状の患者から細菌を見つけて『これこそが黄熱病の原因だ』と考えて『Leptospira icteroides(「黄疸レプトスピラ」という意味)』って名付けたんでやんすね。ところが、『黄熱病』の原因も実はウイルスだったことが後でわかって(野口英世自身も晩年に気付いていたそうです)、結局彼自身も黄熱病で亡くなることになったわけでやんす。野口英世が見つけた細菌は、実は『ワイル(Weil)病』って言う別の病気を起こす『Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae(黄疸出血性レプトスピラ)』だったんでやんすね。


 そんなわけで、お題への答えは

   『インフルエンザを起こさないのに

「インフルエンザ菌」とは、これ如何に?』


   『黄熱病を起こさないのに

「黄疸レプトスピラ」と名付けたが如し』


 お後がよろしいようで」


   
m(__)m


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巻き爪・陥入爪の不適切な「手術」(5) ー 指先を整形する「手術」(後編) ー 『爪床形成法』

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 前回に引き続き、「指先を整形する『手術』」の代表としてご紹介するのは

   『爪床形成法(ソウショウケイセイホウ)』

です。これも前回とりあげた『爪床爪郭弁法』と似ている「手術」なのですが、「爪床部を骨から引き離す」、「骨を削ることもある」などの点で違いがあります。詳細は以下の論文をご参照ください。

   ○ 小坂正明、上石弘 : 巻き爪に対する新しい術式と評価法. 日形会誌、19 : 676 - 681, 1999.

 また、これと非常によく似た方法に『魚口切開法(ギョコウセッカイホウ)』というものもあり、以下の論文で公表されています。

   ○ Suzuki K, Yagi I, Kondo M : Surgical treatment of pincer nail syndrome : Plast Reconstr Surg, 63 : 570 - 573, 1979.


 この『爪床形成法』という手術は読んで字の如く

   爪床を形成する手術

ということです。具体的には、爪床部を一度骨から引き離し、切れ込みを入れて広げ、また骨にくっつけるという方法をとります。その際に骨の一部を平たく削ることもあります。

 文章だけではわかりにくいと思われますので、これも簡略化して図で説明致しましょう。


 まず、手術の邪魔にならないように、下の図1のように

爪床形成法-01

最初に爪を全部抜爪してしまいます。

 次に、図2のように

爪床形成法-02

横に切開を加え、爪床部と骨とを一度切り離します。但し、図では完全に爪床部を切り取っているように見えますが、これは指先の爪がある部分だけです。図ではわかりませんが、指の根元の方ではつながっているものとお考えください。なお、爪床部を切り離す際に、骨が隆起している場合には骨を削って上面を平らにすることもあります。

 そして最後に、図3のように

爪床形成法-03

爪床部の下面に切り込みを入れて左右に広げ、平たく伸ばした状態にして縫合して完了となります。

 これで何となく、この「手術」のイメージがつかめたことと存じます。


 この『爪床形成法』という「手術」は、『爪床爪郭弁法』に比べて手技が簡易であり、問題が少ないように感じられるかも知れません。

 ですが、この「手術」も同様に、いやむしろ、より多くの点で問題があり、やはり

   不適切である

と言う他にないものなのです。


 一つ目の理由は、これも同じく「手術である」ということです。「治療効果が同等なら、手術は保存的治療に劣る」ということについては前回も説明しました。この「手術」で得られる程度の治療効果ならば、他の保存的治療で充分に達成できるのです。

 二つ目は、かなりの長さの爪床部を切り裂いていることです。一応指の根元でつながっているとは言え、爪床部の先端の部分は非常に血の巡りが悪い状態になると考えられます。足の指はただでさえ血液循環が滞り勝ちな部位なのですからなおさらです。そうなると、手術後、傷が治る前に爪床部の先が血行不良に陥り、腐ってしまう恐れがあるのです。特にお年寄りや糖尿病患者などではその危険性が高いのです。そんなことになれば、「巻き爪の方がはるかにマシだった」ということになってしまうわけです。

 三つ目は、手術開始時に全抜爪してしまうことです。以前、「抜爪」という不適切治療について述べた(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/19499082.html)通り、爪を抜いてしまうことは、そのあと生えてくる爪の変形や剥離の原因となり、好ましくないことなのです。この点、前回とりあげた『爪床爪郭弁法』は爪の一部を残しているだけ、まだよい方だったと言えます。この『爪床形成法』では全抜爪が必須となるため、術後、爪が指先まで伸長する間、「指先に体重をかけないようにして歩くこと」といった厄介な「生活上の注意」を守らなければならなくなってしまうことになるのです。さもないと、せっかく「手術」をしたのに、爪が醜く変形してしまって

   「こんなことなら手術なんか受けなきゃよかった!」

ということになりかねないのです。


 以上のことから、この『爪床形成法』(『魚口切開法』を含む)は、『爪床爪郭弁法』よりも不適切とさえ言える「手術」なのです。

 実際にはこれらの『爪床爪郭弁法』、『爪床形成法』、『魚口切開法』を施行している医療機関は非常に少ないと考えられますので、皆さんがこういった「手術」をすすめられることは滅多にないと思いますが、万一すすめられても決して即決はせず、他の医療機関(私の爪専門外来でももちろん結構です)に相談して戴きたいと存じます。


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 さて、これまで色々な「手術」を紹介して参りましたが、どれもこれも

   不適切である

ことがおわかりになったと存じます。


 ですが、実はまだご紹介していない「手術」があるのです。これは現在のところ、

   「巻き爪の標準的手術」

とされており、保険診療で手術をするとなったら、ほぼ間違いなくこの「手術」になると言えるほど普及しているものなのです。

 その「手術」とは

   『鬼塚法(オニヅカホウ)』

に代表される「部分抜爪術」です。

 この『鬼塚法』という「手術」はとても有名で、「巻き爪・陥入爪手術の代名詞」と言ってもいいくらいの存在になっています。しかし、私はこの『鬼塚法』もやはり

   不適切である

と考えているのです。


 この『鬼塚法』については述べるべきことがあまりにも沢山ありますので、ここでは名前の紹介にとどめて、詳しくは項を改めてとりあげることと致したいと思います。


(この項終わり)


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 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

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                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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巻き爪・陥入爪の不適切な「手術」(4) ー 指先を整形する「手術」(前編) ー 『爪床爪郭弁法』

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 前回の「指の肉を切り取る『手術』」と同じく、今回とりあげるのも、爪よりはむしろ指の肉の方に手を加える「手術」です。

 ただ、ここでとりあげる「手術」はより一層過激であり、言ってみれば

   「巻き爪を力尽くで無理矢理矯正してしまおう」

という、如何にも外科的に根治を目指すものになっているのです。ですから、これからご紹介する「手術」にはそれなりの「治療効果」があると言うべきでしょう。

 しかし、それでもなお、これらの「手術」はやはり巻き爪・陥入爪の治療手段として

   不適切である

と言うべきものなのです。なぜなら、ある程度の「治療効果」があるとは言え、それが手術なしでも得られる程度のものでしかないので、わざわざ手術をする意味がないからです。


 原則として、手術をしない治療(専門用語で「保存的治療」と言う)と手術とを比較する場合、効果が同程度であるならば保存的治療の方が優れているのは当然のことです。手術には必ずある程度の侵襲(メスで切るなどによる身体への損害)が伴い、麻酔をするにしてもその痛みがないわけではなく、また、現代医学が進歩したとは言え、麻酔に伴う事故や感染の危険も決して零(ゼロ)にはならないからです。

 ですから、手術が適切な治療手段として認められるためには、

   他に治療手段がない

か、または

   治療効果が保存的治療よりも明らかに優れている

かでなければならないのです。

 その点で、これから挙げる「手術」は

   他に治療手段があり、

しかも

   治療効果が保存的治療と同等かそれよりも劣っている

というわけなのです。

 ですから皆さんは、もしこのような「手術」をすすめられたり指示されたりしたとしても、決して即決はせず、他の医療機関(私の爪専門外来でももちろん結構です)に相談して戴きたいのです。手術を受けてしまってからでは、まず元には戻せませんので、ぜひとも

   手術前に

ご相談戴きたいと思います。


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 ここでは、代表的なものとして、『爪床爪郭弁法(ソウショウソウカクベンホウ)』と『爪床形成法(ソウショウケイセイホウ)』の2つをとりあげることと致します。


 まずご紹介するのは

   『爪床爪郭弁法(ソウショウソウカクベンホウ)』

という「手術」です。これは主に以下の論文にて公表されていますので、詳しくは当該論文をご参照ください。

   ○ 大野宣孝、竹内ひろみ他 : 陥入爪の手術法. 日形会誌、2 : 231 - 238, 1982.

   ○ 桑名隆一郎、浦田喜子他 : 爪床爪廓(原文ママ)弁法による陥入爪の手術法. 臨皮、42 : 179 -182, 1988.


 手術法の名前の意味は、

   「爪床弁(爪床部を含む皮弁(軟部組織の付いた皮膚の一部を体から剥離して、

他の場所へ移動できるように弁状にしたもの。体から完全に切り離すのではなく、血管や神経が

つながっており、血流が保たれているものを言う)
と爪郭弁(爪郭部(爪の両側にある

皮膚)
を含む皮弁)
とを作成し、互いに位置を入れ換える方法」

ということです。具体的には、爪の中央部以外の部分を抜爪した後、爪床部の両端を指の骨から剥がして持ち上げ、その下に爪縁部の指の肉を詰め込んで平らになるようにして縫合するものです。ですが、これだけでは複雑過ぎてわかりにくいと思います。

 そこで、この『爪床爪郭弁法』を簡略化して図で説明することと致しましょう。


 まず、下の図1 のように

爪床爪郭弁法-01



巻き爪になった爪の中央部だけを残して、両端の部分の爪を抜いてしまいます。

 それから、図2 のように、

爪床爪郭弁法-02

爪の縁があったところからメスを入れて骨に達するまで切開し、骨膜(骨を覆っている膜)ごと骨から剥がしてしまいます。爪縁の部分の皮膚は、剥離しておきます(後で使います)。

 そして、最後に図3 のように、

爪床爪郭弁法-03

爪床部と骨との間にできた隙間に爪縁部の肉を詰め込み、剥がしておいた皮膚で傷口を覆って縫合して終了です。このようにして、丸く彎曲していた爪床部を平たく「整形」するわけです。


 如何でしょうか? この「手術」の概要がおわかりになりましたでしょうか?

 ここで、皆さんはどのようにお感じになりますか? 

   「巻き爪に対して行うにしては大がかり過ぎる」

とは感じませんか?

 確かにこの『爪床爪郭弁法』という「手術」は巻き爪を「治して」はいます。ですが、切開が広範囲に及びますので痛みも激しいでしょうし、術後の回復にも期間がかかるでしょう。また、当然入院が必要になり、かかる費用も高額になると考えられます。

 果たして巻き爪は、こんな大がかりな手術をして治さなければならないほどのものなのでしょうか。私は全くそうは思いません。保存的治療でもこれと同等以上の治療効果を挙げることができるからです。

 このような多大な負担と苦痛を伴う「手術」はやはり不要であり、

   不適切である

と言うより他にないのです。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の不適切な「手術」(3) ー 指の肉を切り取る手術

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 これまでとりあげてきた「手術」は爪自体に手を加えるものでしたが、今回問題にする「手術」は「指の肉(専門用語では『軟部組織(ナンブソシキ)』と呼ぶ)を切り取る」というものです。

 どういうことかと言えば、食い込んでいる爪を何とかする代わりに、「食い込まれている」肉の方をどかしてあげようという発想の「手術」なのです。具体的には、指に横からくさび状に切り込みを入れて肉の一部を切り取り、縫い縮めることによって肉の量を減らし、爪から遠ざけるという方法をとります。

 この「手術」はこれまでのものと違って、爪そのものを破壊しないだけ、まだ「マシ」な方法と言えます。少なくとも、後に禍根を残す度合いから言えばはるかに無難な方です。

 ですが、結論から言えばこの「手術」もやはり

   不適切

と言わざるを得ない「治療手段」なのです。ただ、同じ「不適切」と言っても、これまでの「かえって悪くしてしまう」ひどさとは意味合いが異なり、言ってみれば

   非効果的

だというべきものなのです。


 わかりやすくするために、図で説明致しましょう。

 まず、巻き爪の程度が比較的軽く、爪がほぼ半円状になっている時期を考えてみましょう。下の図は、そういう軽度の巻き爪・陥入爪の状態に、この「指の肉を切り取る『手術』」をした様子を表しています。

指の肉を切り取る手術1-1

 このように、指の肉の一部を切り取り、縫い縮めることにより、爪が食い込んでいた部分の肉を爪から「引き離し」て、陥入の程度を軽くしようというわけです。

 皆さんはこれをご覧になって、どうお感じになりますか?

    「なぁーんだ、大したことないじゃん」

とお思いの方、正解です。もし皆さんがそういう方ばかりであるならば、もう今回の記事はこれでおしまいにしてもよいくらいなのですが、恐らくは、

    「おっ! なかなかいい手術じゃん!」

とお感じになる方もいるのではないでしょうか。

 確かに図を見る限り、手術後の陥入爪の程度は改善しているように見えます。ですが、実はこの「改善」は一時的なものでしかなく、いずれまた元の状態(もしくはもっと悪い状態)に戻ってしまうのは確実なのです。


 そう断言できる根拠は3つあります。


 1つ目は、爪には元々「丸くなっていく性質がある」からです。以前の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/15540985.html)でも触れました通り、爪は放っておけばどんどん丸くなっていく性質を持っているのです。ですから、爪の形を理想的な状態に保っておくためには適度に歩いて足の指の腹に圧迫力を与え、それにより爪の両端を持ち上げる力を生み出すことが必要となるのです。そう考えますと、この「手術」を受けるということは

    爪に力が加わらなくなる

ということになってしまうわけですから、巻き爪がこれまで以上に急速に進んでしまうことはほぼ間違いないのです。


 2つ目は、「切り取られた肉はまたいずれ再生する」からです。指の肉だって、ただ無駄に付いているわけではなく、それだけの太さになっているからにはそれなりの理由があったはずです。人体は、欠けた部分を修復する能力を持っていますから、肉を切り取ってもまた時間が経てば同じくらいの指の太さになるだけの肉が増殖するであろうことは想像に難くありません。ですから、一時的に肉を爪から遠ざけても、また肉の増殖によって爪に当たるようになってしまうことは充分に考えられるのです。


 3つ目は、「歩くことによって指の肉が移動する」からです。歩くと足の指の腹に圧迫力が加わるのは既に述べた通りです。そうなると、圧迫力が加わったことにより指の腹の肉が横に移動して、ひいては肉がまた盛り上がって爪に当たるようになってしまうことが濃厚に予想されるのです。


 このような理由から、この「指の肉を切り取る『手術』」をして一度改善したように思われる指も、時間が経つとまた状態が悪くなっていくことが避けられないと結論づけられるのです。以上述べたことを図にまとめると、下図のようになります。

指の肉を切り取る手術1-2

 つまり、せっかく痛い思いをしてこの「手術」を受けても、いずれまた元の木阿弥(もくあみ)になってしまうわけです。


 しかも、これは巻き爪・陥入爪が「軽症」だったらという話です。

 これがもっと重症な例の場合にはもっと悲惨なことになるのです。図で示しましょう。

指の肉を切り取る手術1-3

 巻き爪がある程度以上進んだ状態ですと、食い込んでいる部分が骨近くになってしまうため、いくら肉を切り取って縫い縮めたとしても、ほとんど改善が期待できないのです。そうなると、この「手術」の効果など

   初めからない

ということになってしまいます。


 如何でしょうか? 最初にこの「手術」に対して好意的な感想を持たれた方も、きっと考えを改められたのではないでしょうか?

 そうです。この「指の肉を切り取る『手術』」というものは効果がないか、あっても一時的なものに過ぎないのです。これでは全くもって釣り合いません。

 しかも、現実には指の肉には血管や神経などの重要な組織も含まれているため、上の図のようにごっそりと切り取ることなど不可能であり、もっとごく少ない量しか切除できません。そうなれば、効果のほどなど

   「推して知るべし」

でしょう。


 つまり結論として、こんな「手術」は存在意義がなく、

   不適切である

と言う他にないのです。


 皆さんも、もしこのような「手術」をすすめられたら、決して安易に受けることなく他の医療機関にも相談してよく熟考するようにして戴きたいと思います。私の「爪専門外来」でも相談をお受け致しますので、お迷いの方はぜひともご連絡ください。


(続く)


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