新・美爪通信

 爪に関心のあるすべてのかたに贈る「爪の総合情報ブログ」です。巻き爪、陥入爪など、爪に関することなら何でもとりあげるだけでなく、時には寄り道をして、医学一般の話も加えて参ります。

巻き爪・陥入爪の不適切な「手術」(2) ー 爪を分割する「手術」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 これは、流石に現代ではもう行われることのない(と私は信じています)「手術」です。もし今の時代に、仮にこんな「手術」を実行したら、「傷害」として訴えられても文句は言えないでしょう。

 医学の他の分野と同様に、爪疾患に対する手術療法も常に発展・進歩していくものであり、その試行錯誤の中において過去に試みられた「手術」の一つの例が、今回とりあげる「爪を分割する『手術』」なのです。

 ですから、今後皆さんがこのような「手術」をされたりすすめられたりすることはまずないと思われますが、「以前にはこんなこともあった」という知識を得て戴くために今回ご紹介することと致しました。


 ある医師が考えました。

   「巻き爪の原因は、爪が左右から圧迫されるためである。

従って、爪を幾つにも分割して、圧迫力を分散させれば

巻き爪は起こらないはずである」

と。

 つまり、下図のように巻き爪になった爪

爪の分割01
を、次の図のように
爪の分割02
短冊状に縦割りにして幾つにも分割する「手術」をすれば、爪に左右からの圧迫力が伝わらなくなるから「巻き爪が治る」と考えたわけです。

 果たして、実際の結果はどうなったでしょうか?

 何と、分割した爪のそれぞれが全て巻いてしまい、下図のように
爪の分割03
まるでメガホンを幾つも横に並べたようになってしまったのです!

 これはつまり、

   「巻き爪の原因は、爪自身の『丸まる性質』にある」

ということを知らなかったための失敗であったわけです。


 やはり、適切な治療を行うためには正しい原因の理解が重要であるという教訓となる例と言えるでしょう。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

巻き爪・陥入爪の不適切な「手術」(1) ー 爪を生えなくする「手術」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 さて、これから巻き爪・陥入爪に対する具体的な手術療法について述べていくわけですが、以前にも申しました通り、私は

   「(原則として)巻き爪・陥入爪に対する手術は悉(ことごと)く不適切である」

と考えております。ですから、これからご紹介する様々な手術療法は(程度の差こそあれ)「全て不適切である」と言ってよいのです。

 ですから、皆さんも巻き爪・陥入爪で手術をすすめられても決して安易に受けてしまわないよう重々ご注意戴きたいと思います。ことによると

   「もう手術以外に治療法はないっ!」

と断言される場合さえあるかも知れませんが、それでも即決はせず、考える機会を作って戴きたいのです。手術は、これまで述べてきた「処置」とは異なり、

   一度受けてしまったらもう元には戻せない

性質のものだからです。私の「爪専門外来」にも、不適切な手術の結果として深刻な不都合を抱えた患者が訪れることがありますが、残念なことに手術前の状態ほど良好な状態に戻すことはまず不可能なことが多いのです。もし、お迷いの方がいらっしゃいましたら、ぜひとも

   手術前に

メールなどでご相談戴きたく存じます次第です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 では、早速巻き爪・陥入爪に対して行われる「手術」についてとりあげて参りましょう。

 なお、ここで「手術」と括弧で括ったわけは、「本来、手術というものは治療の手段として行われるべきものだから」であり、これからとりあげるものは、そういう意味で「手術」とは言いがたいものであるからです。

 「治療」と呼ぶからには「前よりも後の方が改善していなければならない」のは当然の話です。ところが、これから述べていく「手術」は「前と後とでほとんど改善が見られない」か、むしろ「前よりも後の方が悪くなってしまう」ものばかりなのです。

 もちろん、その中には程度の違いがあります。そこで、まず最初にあらゆる意味で

   不適切としか言いようのない

ひどい例からとりあげて参ることと致します。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 最初にとりあげるのは

   爪を生えなくする「手術」

です。

 これは以前とりあげた「抜爪」とは異なります。「抜爪」は爪甲のみを抜き去り、爪を造る「爪母部」は残しているのに対し、これは「爪母部を含めた指先の肉をごっそり切除してしまう」ものなのです。それによって二度と爪が生えて来ないようにしてしまおうというわけです。

 如何でしょうか? 一般の人はきっと

   「何て恐ろしい『手術』だろう!」

と思うことでしょう。ですが、中には

   「何て素晴らしい『手術』なんだろう!」

とお思いになる方もいるかも知れません。きっとその方はひどい巻き爪・陥入爪で長年苦しんでいらっしゃる方に違いありません。


 「抜爪」のところでも述べましたが、巻き爪・陥入爪で苦しむ患者の中には、

   「もう爪なんてなくなってもいいから、この痛みから解放してくれ!」

と真剣に願っている方が決して少なくないのです。そういう方からすれば、この「爪を生えなくする『手術』」というのは

   究極の根治療法

のように感じられるのも無理はないのです。


 ですが、この考えは非常に危険です。

 確かにこの「手術」を受ければ巻き爪・陥入爪はなくなり、再発する危険も全くありません。何しろ「爪がない」のですから。では、それでよいのかと言えば

   全然よくない

のです。

 この手術は一見「巻き爪・陥入爪の根治手術」と言えるようですが、実は

   「障害を作り出している乱暴な行為」

なのです!

 まず第一に、爪がなくなると指の見た目が「のっぺらぼうの顔」のように異様なものになります。そして、これはどうにもごまかしようがありません。歯なら抜いてしまっても入れ歯や差し歯で何とかすることができますが、爪ではお手上げです。まさか差し歯のように「差し爪」(「刺し爪」ではない)などするわけにも行きません。「人工爪」にしても、土台となる爪があるからこそ付けられるわけですから、爪のない指には使えません。歯のように「インプラント」でもすれば何とかなるかも知れませんが、まさか爪の再建のために指先にインプラントを入れようなどという人はいないでしょう。

 そして、もう一つ、もっと重大な問題が生じるのです。それは

   「指の機能障害」

です!

 ここで皆さんには、このブログで以前くどいほど強調した「爪の存在意義」(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/11921362.html)、そして「爪医学の黄金原則」(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/12595790.html)をぜひとも思い出して戴きたいと思います。つまり、

   「爪治療においては、爪の長さと幅とを保つ、または
回復させることを最優先とすべきである」(爪医学の黄金原則)

ということです。つまり、爪には大切な機能があり、それを果たすためには爪の長さと幅が保たれていなければならないのです。

 それなのに、この「手術」を受けてしまったら、もう爪がなくなってしまうのですから長さも幅もありません。

 爪の機能が失われてしまったら、どんなことが起こるでしょうか?

 指先が衝撃に弱くなり、ちょっとぶつけただけですぐに怪我をして出血してしまうようになります。指先を保護するために指先の皮膚の角質が厚くなり、タコやひび割れができやすくもなります。

 また、指の腹に力を加えられなくなるため、「踏ん張り」が利かなくなります。つまり、足の機能が障害されるのです。これは日常生活でも問題になりますが、スポーツをする人にとっては決定的な「障害」となります。およそ「スポーツ」と呼ばれるもので足を踏ん張らないものなどほとんどありません。例外と言えば水泳くらいでしょう。こういったほとんどのスポーツで「足の踏ん張りが利かなくなること」は、もうそれだけで

   「重大な欠陥」

になってしまうのです。ましてや、バレエダンスなどは全く不可能になり、もしバレリーナだったら引退を余儀なくされることでしょう。

 こういった「障害を持った人」を作り出してしまうのがこの「爪を生えなくする『手術』」なのです。


 「瘭疽(ひょうそ)」や「末節骨骨髄炎(まっせつこつこつずいえん)」でも起こしていない限り、こんな「手術」は不要であり、逆に、起こしているとしたらむしろ指の切断まで考えないと充分な治療とは言えません。つまり、このような「手術」は

   いらない

のです。


 皆さんは、もし仮にすすめられても、ゆめゆめ「根治」だの「完治」だのといった言葉に惑わされないように重々お気をつけください。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

コメントの管理について

このエントリーをはてなブックマークに追加
 皆さん、新年明けましておめでとうございます。

 ここのところ、なかなか更新できず恐縮しております。

 年も改まったことですので、これを機に更新頻度を上げることと致しましょう。

 さて最近、何がきっかけかわかりませんが、当ブログに訳のわからない(外国語だったり、また日本語でも意味の通じない内容の)コメントが盛んに寄せられるようになってきました。これらはおそらく「スパムコメント」と呼ばれるものと思われます。

 これらのコメントは読んでも当ブログの記事との関連が全く認められず、どんな内容にでも付けられる曖昧なコメントか、または全く意味を成さない日本語文の羅列でしかありません。

 このようなコメントは、読者の方々にとって邪魔にこそなれ、有用なものにはなり得ないと考えます。

 そこで、新年を迎えたこの機に、こういった「スパムコメント」の類いを全て削除することと致します。今後も、同様のコメントは発見次第削除することと致しますのでご諒承ください。

 なお、当ブログに関連のある内容であれば、批判的な内容であっても決して削除は致しませんので、ご意見のある方はどうぞコメントをお寄せください。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

手術を必要とする爪疾患

このエントリーをはてなブックマークに追加
 前回の記事で私は

   「巻き爪・陥入爪には(原則として)手術は必要ない」

と書きましたが、意外に思われた方が少なからずいらっしゃるのではないかと思います。ことによると、

   「専門外のくせに何を馬鹿げたことを言っているのだ!」

とお怒りの方もいらっしゃるかも知れません。ですが、私は決して間違ったことを言っているつもりはありません。現時点において、巻き爪・陥入爪に対して行われている「手術療法」は決して「最良」ではなく、手術以外の手段でもっとよく、しかも楽に治すことができることを知っているからです。詳しくはこれから順を追って述べて参りますが、それをお読み戴ければきっと、皆さんも賛同されるであろうと信じております。


 但し、誤解がないようにここで申し添えておきますが、私は決して

   「爪疾患に手術が必要なものがない」

と言っているわけではありません。こと巻き爪・陥入爪に関する限り、手術なしでほとんど治療可能であると言っているだけです。

 そこで、本題の「巻き爪・陥入爪の『手術療法』」についての説明に入る前に、「手術を必要とする爪疾患」について述べておきましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 爪疾患の中で、手術を要するものは主に以下の通りです。

   A. 爪周囲の悪性腫瘍

   B. 爪周囲の良性腫瘍

   C. 指節骨骨髄炎(しせつこつこつずいえん)


 これから、それぞれについて説明を加えましょう。


A. 爪周囲の悪性腫瘍

 梶原一騎(かじわら・いっき、1936年9月4日-1987年1月21日)原作の有名な『巨人の星』という野球漫画がありますが、その中で主人公の星飛雄馬(ほし・ひゅうま)の恋人として登場する日高美奈(ひだか・みな)という女性(看護師の服を着てその仕事をしているが、看護師の資格は得ていない)は、手の爪にできた『死の星』のために亡くなります。この『死の星』は、医学的には悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)であると推定されます。

 このような悪性腫瘍がもし爪に生じたら、これはもう手術で切除する以外に有効な治療法はありません。(ただ、実際には爪そのものに悪性腫瘍が生じることはなく、爪母部(爪を造る部分)に生じる場合がほとんどです。その場合には爪には黒い縦帯のような線が入ることになるので、『死の星』のようにはなりません。)

 爪に関連する悪性腫瘍としては、悪性黒色腫の他の皮膚癌も起こり得ますが大変まれなもので、私も1例しか見たことがありません。


B. 爪周囲の良性腫瘍

 悪性腫瘍なら当然手術で切除しなければならないわけですが、良性であっても手術しなければならない場合があります。

 主に問題になるのはグロムス(glomus)腫瘍と爪下外骨腫(そうかがいこつしゅ)の2つです。

 グロムス腫瘍は、爪床部に生じることが多い腫瘍で、痛みが強いため、これができると爪の裏側が痛くてたまらなくなります。また、これのせいで爪の正常な伸長が妨げられ、爪が変形を起こすこともあります。ですから、これも手術による切除が必要となります。

 爪下外骨腫は、爪の丁度裏側に当たる部分の骨に突起ができるもので、これがあると爪床部がそこだけ山のように盛り上がってしまい、爪が変形してしまいます。これも自然に治ることはないので、手術による切除が唯一の治療法となります。


C. 指節骨骨髄炎

 これは、主に陥入爪などが原因で瘭疽(ひょうそ)となり、その炎症が骨にまで及んでしまった状態を指します。

 瘭疽までなら、抗生剤療法で治る可能性もありますが、骨にまで炎症が及んでしまうと、もうそれだけでは治らず、骨の一部を削る手術が必要になることが多いのです。

 上に述べたA.、B. は予防するわけには行きませんが、この指節骨骨髄炎については、陥入爪を早期に治療することで防ぐことができますので、ここまで悪化するまで放置しないことが大切です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 このように、「手術を要する爪疾患」というものも確かに存在します。ですが、いずれも滅多に見られないものですので、実際には爪疾患で手術しなければならない場合というのは極めてまれなのです。

 それ以外の大部分の場合なら、手術なしで充分に治せるのです。

 よくわからないとおっしゃる方は、手術を決断なさる前にぜひとも然るべき医療機関にご相談ください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

巻き爪・陥入爪の手術療法は本当に必要なのか?

このエントリーをはてなブックマークに追加
 さて、これまで「巻き爪・陥入爪の不適切な『治療』」に関連して「消毒」について長々と述べて参りましたが、ここで話を本来の爪医学に戻しましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 これまで「不適切な『治療』」として挙げてきたものは、外来でも施行可能な、主に「処置」と呼ばれる「治療法」であり、「手術」(入院を必要とするものも含む)と呼ばれるものは含めていませんでした。

 そこで、これからは巻き爪・陥入爪に対して行われる「手術療法」について考えて行くことと致しましょう。


 早速、手術療法の実際について話を始めたいところですが、その前にまず明言しておきたいことがあります。

 それは、

   「巻き爪・陥入爪には原則として手術は必要ない」

ということです。言い換えれば、これから述べていく数々の「手術療法」は全て

   不適切である

ということなのです。

 詳しいことは追々述べて参りますが、ここでまずこのことをしっかり確認しておきたいと思います。なぜなら、「手術療法」は一度受けてしまうと、ほとんどの場合

   元に戻すことができない

からです。ですから、このブログをご覧になっている皆さんには、ぜひとも「手術療法」に対して慎重であって戴きたいのです。もし現在、治療中の医療機関から手術を指示されているとしたら、決して安易にお受けになることなく、お待ちになることをおすすめ致します。


 現に、私が今まで爪の診療をしてきた100人以上の患者の中で、巻き爪・陥入爪のために手術にまで至ったのはたった1例しかないのです。他は全て、保存的治療(手術を行わない治療)で対処できているのです。

 もし、手術を受けるか否かでお悩みでいらっしゃるならば、ぜひとも「爪専門」と明記している医療機関で相談なさってください。もちろん、私の爪専門外来でも結構です。手術を受けるのは、その後でも決して遅くはありません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

消毒について(10) ー 神話3「消毒は傷の治りを速める」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 では、最後に消毒にまつわる3つ目の神話

   「消毒は傷の治りを速める」

に話を進めましょう。

 この神話は実のところ何の根拠もなく、消毒薬の説明書を見てもそんなことは全く書かれていないにもかかわらず、何故か一般に広く信じられているものなのです。


 考えてもみてください。私たちが消毒薬を持ち出してわざわざ「消毒」などという行為をするのはいったい何のためでしょうか?

   「消毒が気持ちいいから?」

   「消毒が面白いから?」

いえいえ、そんなことはないでしょう。 消毒すると浸みて痛いわけですし、しかもそのためにはお金を出して消毒薬を買わなければならないわけですから、何かしっかりした理由がなければおかしいでしょう。

 おそらく、一般の方が消毒をしている最大の理由は

   「傷を速く治したいから」

に違いないのです。ということは、一般の方は

   「消毒をすると傷が速く治る」

つまり、

   「消毒には傷の治りを速める効果がある」

と信じていることになるのです。


 ところが、これはとんでもない大間違いなのです!

 本当は

   「消毒は傷の治りを妨げる」

言い換えれば

   「消毒は傷の治りを遅らせる」

と言うべきなのです。


 これまでの記事をお読みになってきた方であれば、上の主張も比較的すんなりと受け入れて戴けることでしょう。ですが、世間一般(医療関係者をも含む)の方にこんなことを言えばきっと

   「何を馬鹿げたことを言ってるんだ!」

と怒られるのではないでしょうか。

 それくらい、この神話は私たちの意識に深く根を張っていて、容易に修正できないようになってしまっているのです。


 ですが、誤った神話(「迷信」と言ってもいい)はやはり打破して、正しい認識を広めて行かなければなりません。そこで、わかっていらっしゃる方には些かくどい印象もあろうかと存じますが、この

   「消毒は傷の治りを速める」

という神話が如何に真実とかけ離れているかについて詳しく説明して参ることと致しましょう。


 私たちが傷を負うと、その傷はどのようにして治って行くのでしょうか?

 単純に考えれば、皮下の組織を作っている細胞が盛んに分裂・増殖して、さらにその上を表皮を作る細胞が覆って治癒することになります。

 ところが、この「創傷治癒過程」には大抵の場合、ある重大かつ厄介な段階が必要になるのです。それは、

   「異物の除去」

です。つまり、傷にはほとんどの場合、血の塊とか泥とか砂粒とか死んだ組織とかという邪魔な異物が存在しているので、これを何らかの方法で処理しなければならないのです。

 これは、戦争などで一部壊滅した町の復興を例えに考えればわかりやすいでしょう。町が復興するためには、家屋の再建も必要ですが、その前にしなければならないことがあります。それは

   瓦礫(がれき)の処理

です。それを終えなければ、新たに建物を作ろうにも瓦礫が邪魔をして作業が進まないからです。

 傷の場合も同じです。傷の中に異物が残っていると、いくら時間が経っても傷は治りません。それは異物が創傷治癒を妨げているからです。実際、傷が化膿して膿みが溜まっているような場合は切開排膿しない限り傷は治らないのです。だからこそ、傷を治療する際にはよく洗浄して異物が残らないようにし、血の塊などが生じないように傷を密着させて縫合したりするわけです。そして、傷の一部の組織が死んでいるような場合には、わざわざその部分を切除する(このことを専門用語で「デブリードマン(débridement、フランス語)」と呼ぶ)ことさえするのです。


 さて、そのように考えて参りますと、「消毒」という行為は果たして「傷の治りを速めるもの」と言えるでしょうか? ここに問題があります。

 これまで散々述べて参りました通り、「消毒」とは

   「消毒薬の害毒作用によって細菌を殺滅しようとする行為」

に他なりません。そして、実際には細菌よりも抵抗力の小さい「ヒトの細胞」も殺滅してしまうものなのです。

 そうなりますと、傷に消毒薬を塗ることによって何が起こるかは、実際にしてみなくてもわかります。

 まず、傷口にいた細菌が死んで死骸となり、後に消毒薬(もしくはそれが変化したもの)が残ります。そして、それだけでなく、消毒薬によって死んだ細胞もかなりの数が生じることになるのです。これはどういうことでしょうか?

 消毒する前は、傷口にある異物と言えば細菌のみです。ところが、消毒後は異物が

   細菌の死骸

   消毒薬およびそれが変化した化学物質

   ヒトの細胞の死骸

の分だけ新たに「増えて」しまうことになるのです。これがどうして「傷の治りを速める」ことになり得ましょうか?

 しかも、ヒトの細胞は弱いために、消毒薬が変化して、もはや細菌を殺す力がなくなったとしても、それにヒトの細胞が触れればどんどん死んで行きます。また、ヒトの細胞は他の細胞の助けがなければ生きて行けない存在ですから、ある細胞が死ねば、その隣の細胞も「生きる支えを失って」次々と死んでいきます。その中には当然、傷を治すべく分裂・増殖して行かなければならない組織の細胞も含まれるのです。

 ということは、「消毒」という行為は

   創傷治癒の妨げになる異物を増やす

のみならず、

   創傷治癒に必要な細胞を殺滅する

ということとなり、

   傷の治りを二重に邪魔する行為

と言う他にないのです。

 これを、再び戦争で壊滅した町の復興に例えるなら、消毒するということは、「まだ住める家に毒ガスを撒いて住めなくして、結果として瓦礫の量を増やす」、「復興のために働く人々に毒ガスをかけて殺す」ことをしているのと同じことなのです。如何に恐ろしくも愚かしい「行為」であることか、よくおわかりになることでしょう。


 こんなことを言うと、おそらくは次のような反論が湧き上がってくることでしょう。

   「では、傷口にいる細菌は放置していいのか?!」

 これに対する答えはこうなります。

   「放置するよりは減らした方がよい。ただ、そのためには流水で洗浄する(それで済まなければデブリードマンをする)だけでよく、実際、それくらいしかできることがない」

 確かに洗浄だけで細菌を完全になくすことはできないでしょう。でも、それを言うなら消毒も同様であり、いくら強力な消毒薬を塗りたくっても細菌をゼロにすることなどできないのです(なぜなら、傷口の蛋白質などによって消毒薬の効力が弱められるから)。逆に、消毒すると洗浄では起こらない数々の悪影響が生じることは既に述べた通りです。

 もし、洗浄では落ちないほど組織の深くにまで細菌が入ってしまったら、もはや消毒しても細菌を殺すことはできません。そうなった場合には、ヒトの免疫力に頼るか、さもなければ抗生物質などによって「中から」細菌を攻撃する以外に方法はないのです。


 如何でしょうか?

 ここまで来れば、これまで何の疑問も持たずに消毒をしていた方でもおわかりになるでしょう。

 「消毒」という行為は傷の治りを速めることなどなく、むしろ異物を生み出すことによって治りを遅らせているのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 さて、これで「消毒についての3つの神話」の全てが誤りであることを説明しました。

 つまり、皆さんが「消毒」に対して期待している効果というものが完全に否定されたわけです。こうなれば、もはや「消毒」をし続ける意味は全くありません。

 私たちは古くからの慣習に縛られて、不合理なものでも意味不明なことでも漫然と続けていることがありますが、「傷口の消毒」もまさにその一つです。

 このブログをお読みになった方は、ぜひとも夏井睦先生のホームページ『新しい創傷治療』(※閲覧注意:実際の傷の写真がありますので、血を見るのが苦手な方はご注意ください)http://www.wound-treatment.jp/) をもご覧になって、正しい知識を得てください。

 結論としては、

   「(健常な皮膚の消毒はよいが)

傷口の消毒は無意味かつ有害である」


ということになるのです。


(この項終わり)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

消毒について(9) ー 神話2「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」(後編) ー 史上最悪の毒ガス作戦

このエントリーをはてなブックマークに追加
 さて、これまで「細菌」と「ヒトの細胞」とについて長々と説明して参りましたのは他でもありません。

 消毒に対して未だに大部分の人(医療関係者も含む)が抱いていると思われる

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

もしくは

   「消毒はバイ菌(細菌)に対して殺滅作用を

もつが、ヒトの細胞に対しては無害である」


という神話を打破するためでした。

 ここまで記事をお読みになった方であれば、もう説明するまでもなくおわかり戴けることかとは思いますが、誤解や反論の余地を完全に潰しておくためにも、この神話に引導を渡す作業を完遂することと致しましょう。


 「消毒」とは、言い換えれば

   「消毒薬の害毒作用によって細菌を殺滅しようとする行為」

に他なりません。(ここで「殺滅する行為」としなかったのは、「確実に殺滅できるかどうかが明確でない」からです。)そして、その害毒作用が主に

   ◯ 水分を奪う作用(アルコール)

   ◯ 細胞膜を破壊する作用(界面活性剤)

   ◯ 蛋白質を冒す作用(その他)

の3つにまとめられることは、既に説明しました。

 では、これらの作用に対して、「細菌」と「ヒトの細胞」とではどちらが強い抵抗力を持っているか、個別に検証してみましょう。


 まず、水分を奪う作用に対して「ヒトの細胞」は極めて弱い存在です。絶えず周囲に水分(つまり湿潤環境)が存在しなければ生きていられないのですから、環境から水が奪われるのは致命的です。ましてや、細胞そのものからも水分が奪われるに至っては、まさに「死者に鞭打つ」ようなもので、辛うじて生き残っていた細胞にも完全にとどめをさされてしまうでしょう。その点、「細菌」は細胞壁で覆われていますので、周囲が乾燥しても細胞壁が内部の水分を閉じ込めているため、しばらくは死なずにいられることが多いのです。当然、抵抗力は「細菌」の方が格段に強いと言えます。

 次に、細胞膜を破壊する作用について考えても、細胞膜がむき出しになっている「ヒトの細胞」にとってはひとたまりもない破壊作用となります。「細菌」は細胞膜の外側に細胞壁がありますので、高濃度・長時間の消毒薬にさらされない限り、持ちこたえられる可能性があります。つまり、抵抗力はここでも「細菌」の方がはるかに強いことは間違いないのです。

 そして、最後の蛋白質を冒す作用についても、細胞表面に細胞膜と共に無数の蛋白質を露出させている「ヒトの細胞」は非常に弱いものと考えざるを得ません。この点においても、「細菌」は細胞膜の周囲を細胞壁が覆っているので、当然、蛋白質も細胞壁に覆われていて、消毒薬が直接作用しにくいようになっているのです。そうなると、やはり抵抗力は明らかに「細菌」の方が勝っているという結論になるのです。


 如何でしょうか?

 つまり、消毒薬の作用を幾つかに分類して考えてはみましたが、結論としては全ての作用に対して

   
「細菌」の方が「ヒトの細胞」よりも明らかに抵抗力が強い

ということとなるのです。

 こういう結論になるのなら、消毒薬の作用の分類など初めから不必要だったのではないかという気さえするところですが、本当の意味で充分に理解して納得して戴くには、やはり必要な行程だったものと私は信じています。


 さて、そうなると、消毒薬を傷口に塗った場合にどのような結果になるかは容易に推定できます。

 単純に考えて、消毒薬を作用させたときに、抵抗力の強い方と弱い方とではどちらが多く殺滅されるでしょうか? これはもう、質問するのも愚かしいくらいに明白なことです。

 図で考えてみましょう。

 ここまでの結論で、消毒薬に対する抵抗力は「ヒトの細胞」よりも「細菌」の方が強いわけですから、グラフにすれば下の図1のようになります。

「ヒトの細胞」と「細菌」との抵抗力の違い

























 では、ここで消毒薬をほんの少しかけてみましょう。作用が明らかに弱すぎる場合には、次の図2のようになり、「ヒトの細胞」も「細菌」も影響を受けずに生き長らえることになります。

消毒薬が弱い場合

























 でも、これでは何の意味もありません。そこで、今度は消毒薬をうんと濃くしてみましょう。すると、おそらく次の図3のように、「細菌」も「ヒトの細胞」もみんな死んでしまうことになるでしょう。

消毒薬が強い場合

























 「こんなことでは困る」とばかりに、消毒薬をもっと薄めに加減したらどうなるでしょうか?

 そうです!

その中間の場合

























 何と、標的である「細菌」は死なずに、肝心の「ヒトの細胞」だけが死んでしまうという、

   最低・最悪の結果

となるのです。

 消毒薬をどう加減してみたところで、上の3つの場合以外には絶対になり得ません。

 結局どういうことになるかと言えば、どうしても

   消毒薬は「細菌」も殺すが「ヒトの細胞」も殺す

ということにならざるを得ないわけです。しかも、下手をすれば「細菌」を殺さずに「ヒトの細胞」だけ殺すなどということにさえなりかねないのです。

 恐ろしいとは思われませんか?


 これを戦争に例えればさらにわかりやすいでしょう。

 ある戦場で、自軍の兵士が侵入してきた敵軍と戦っているとします。しかも、自軍はほとんど裸同然で戦っているのに対して、敵はみな鎧や防毒マスクで武装しているとします。

 そういう状況において、もし上空から毒ガスを散布したらどういう結果になるでしょうか?

 これはもう、やってみるまでもなく明らかでしょう。

 敵も多少は死ぬかもしれませんが、自軍はそれよりはるかに多く死んでしまい、結局生き残ったのは敵ばかりということになるのはほぼ間違いないのです。

 もし実戦において、自軍援護のつもりでこのような作戦を断行する将軍がいたら馬鹿です。その罪は文字通り万死に値し、陣中引き回しのうえ獄門にかけられても当然と言えるでしょう。


 それなのに、これとほとんど同様の愚行である「消毒」という行為が、何の疑問も持たれずに日々盛んに行われているのです。実に不合理なことと言わざるを得ません。

 「消毒薬」という手段を用いる限り、「ヒトの細胞」を殺さずに「細菌」だけを殺すなどということは

   絶対に不可能

なのです。


 私たちは、もう既に

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

などという神話を捨て、正しい判断をするべき時に来ているのです。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

消毒について(8) ー 神話2「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」(中編) ー ヒトの細胞は如何に「か弱い」存在であるか

このエントリーをはてなブックマークに追加
 前回の記事では、「細菌」というものが「細胞壁」という鎧で守られていて、外界からの刺激に対して非常に強い性質を持っていることを説明しました。

 では、もう一方の「ヒトの細胞」はどうでしょうか? 「細菌」と比べて「強い」のでしょうか、それとも「弱い」のでしょうか? 消毒薬を傷口に塗れば、消毒薬の効果、つまり「毒性」は当然「細菌」にも「ヒトの細胞」にも同様に作用するはずです。どちらが強いのかがわかれば、自ずから

   どちらがより多く殺滅されるか

も明らかとなるわけです。


 そこで、今度は「ヒトの細胞」の性質について考えてみることに致しましょう。


 ヒトの細胞は、当然ながら「動物細胞」の一種であり、「細胞壁」を持ちません。ですから、その中身を守る構造としては

   細胞膜しかない

わけです。しかも、その細胞膜というのは、以前にも触れましたように「脂質二重層」という極めて脆くて薄い膜でしかないのです。この事実から見ても、ヒトの細胞というものが

   非常に弱い

存在であることが充分に想像できるでしょう。

 ですが、おそらくあなたが想像されている「弱さ」は、現実の「か弱さ」に比べればまだまだ到底及ばないのです。

 ヒトの細胞がいかに「弱く」、「脆く」、「死にやすい」ものであるか充分に納得して戴くために、くどいようですがこれから順々に説明して参ることと致しましょう。


◯ ヒトの細胞の生存には水分が不可欠

 まず、ヒトの細胞が生きていくためには周りが水に包まれていなければなりません。つまり、乾燥してしまったらすぐに死んでしまうのです。その点、ちょっとした乾燥くらいでは死なない細菌とは全く違います。

 しかも、ヒトの細胞が死なないためには「ただ周りに水があればいい」わけではなく、「同じ浸透圧の水」でなければなりません。前回記事でも触れましたように、細胞膜には「半透膜」としての性質がありますので、その内外で浸透圧の差があると、薄い方から濃い方へと水だけが移動する結果となります。そうなると、もしヒトの細胞の周りの水が細胞の中身よりも濃かったら、細胞からどんどん水が抜けていって、しまいには干からびて死んでしまうでしょう。また、逆に細胞の中身に比べて周りが薄かったら、水がどんどん細胞内へ入り込んでしまい、細胞が水で膨れあがって最後には破裂してしまうでしょう。

 ですから、ヒトの細胞はとても特殊な環境がなければ「生きていること」すらできないのです。


◯ ヒトの細胞は化学物質に敏感

 ヒトの細胞は一応「細胞膜」という被膜に包まれてはいます。しかし、この「細胞膜」は極めて薄く、また脆いもので、界面活性剤などの化学物質で容易に破壊されてしまいます。しかも、「細胞膜」はただの膜ではなく、細胞の外との物質のやり取りや情報の伝達などのために幾つもの「通路」が用意されていて、それらは全て蛋白質で造られています。

 つまり、細胞の表面には幾つもの蛋白質がむき出しの状態で存在しているわけです。そうなると、蛋白質に影響を及ぼす化学物質は全て細胞にも変化をもたらすことになるのです。

 そうなると、細胞膜以外に何も身を守るものを持たないヒトの細胞は、化学物質からの影響(主に悪影響)をもろに受けることになります。その点、外側に細胞壁を持つ細菌は、化学物質を細胞壁がある程度遮ってくれますので、影響を受けにくいと言えるのです。


◯ ヒトの細胞の生育には他の細胞の存在が必要

 ヒトの細胞の生存には「特殊な環境が必要」だと言いました。ですが、ヒトの細胞がただ死なないだけでなく「生きていく」ためには、それだけでは到底不十分なのです。ヒトの細胞の生育には、どうしても他の細胞との共存が必要なのです。

 これが例えば細菌であれば、もし他に菌がいなくても、栄養などの条件が満たされていれば勝手に増えて生き続けることができます。細菌はそれぞれ1個の細胞で栄養を取り、不要物を排泄することができるからです。

 ところが、ヒトの細胞は元々1個1個で生きていくようにはできておらず、それぞれの組織の一員として与えられた役割だけを果たせばよいように変化している(このことを「分化」と言う)のです。ですから、必要とする栄養などは、その細胞に適した形で与えられるような仕組みが他の細胞によって用意されており、自分で獲得したりする必要がないようになっているのです。

 実際、細菌を増やすには栄養を溶かした寒天などの上に塗って暖めておくくらいでよく、その栄養もあまり複雑な成分を要しないものが多いのです。ところが、ヒトの細胞を培養しようとなるとこれは大変で、数え切れないほどの様々な成分を含む培養液を用意するだけでなく、それに牛胎児血清(牛の胎児から採った血液を放置し、上澄みを採取したもの。「牛の血液」では駄目で、「牛の『胎児』の血液」でなければならないのでとても高価)を混ぜなければならないのです。しかも温度調節も微妙で、少しでも狂うとすぐに死んでしまいます。癌細胞ですら、例外ではありません。

 例えて言えば、細菌は自分で餌を探し自分で調理して食べている自立した大人であり、ヒトの細胞は食事も排泄も人任せの赤ん坊のようなものなのです。如何にヒトの細胞が「か弱い」か如実におわかりになるでしょう。


 如何でしょうか?

 ヒトの細胞というものが如何に弱くて死にやすいものであるか、充分におわかりになったことでしょう。

 ですが、こういう説明をすると、

   「じゃあ、ヒトはなぜ簡単に死んでしまわないんだ?」

という疑問を持つ方もいらっしゃるかも知れません。

 ですが、これは矛盾ではないのです。ヒトの細胞は確かに1個だけで見ると極めて「か弱い」ものでしかないのですが、ヒトという個体はとてつもない数の細胞でできているわけですので、その中のあるものが「皮膚」や「粘膜」といった外界との境界を守る組織として働き、内部環境を保ってくれているから、ヒトは簡単に死んだりしないで済んでいるということなのです。


 傷口というものは、つまり、その「外界との境界を守る組織」が破れている部分のことであるわけですから、そこに露出している細胞は、1個1個の細胞と大差ない脆弱な状態と考えてよいのです。


 この「細菌」と「ヒトの細胞」との違い、特にその強さの違いを考えたとき、「消毒」という行為はどういう結果を招くでしょうか? これはもう、考えるまでもなくあからさまにわかり切っているのです。


 次回は、この「消毒が引き起こす結果」について確認し、

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

という神話がとんでもない間違いであることを明らかにしようと思います。


(続く)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

消毒について(7) ー 神話2「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」(前編) ー 「細菌」とはどういうものか

このエントリーをはてなブックマークに追加
 消毒にまつわる神話の2番目は

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

というもので、言い換えれば

   「消毒はバイ菌(細菌)に対して殺滅作用を

もつが、ヒトの細胞に対しては無害である」


といった考え方です。

 こういう考え方で「消毒」というものを捉えていらっしゃる人は相当に多いと思われます。だからこそ、イソジン®などの消毒薬を傷口が見えなくなるほど塗りたくっても平気でいられるのです。

 ですが、これもまた

   何の根拠もない幻想

であり、真実は全く異なっているのです。


 この「神話」がいかに現実とかけ離れたとんでもない間違いであるかを実感するためには、少々回り道になりますが、「細菌」と「ヒトの細胞」について予備知識を得て戴くのが最良だと思います。そこで、まず最初に

   バイ菌(細菌)

とはどういうものなのかについて説明することに致しましょう。

 とは言っても、「細菌」を含む微生物について詳しく説明していると何冊もの本になってしまいますので、ここでは「消毒」の真実を理解するために必要な事柄に絞って述べることとします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一般に「バイ菌」とは、「ヒトに対して害となる微生物全般」のことであり、必ずしも「細菌」だけとは限らず、「真菌」(一般に「カビ」と呼ばれる)やウイルス、時には寄生虫をも含める場合があります。ですが、こと傷口への感染という点で言えば、細菌以外の微生物はほとんど問題になりません。そのため、ここでは「細菌」についてのみ考えることにしましょう。


 「細菌」とは、一般に「菌類」と呼ばれる微生物の中の

   「原核生物(げんかくせいぶつ)」

と言うものに当たります。「原核生物」というのは、

   「真核生物(しんかくせいぶつ)」

に対して言う言葉です。「真核生物」がはっきりした「核(かく)」を持つのに対して、細菌はそうでないため、こう呼ばれるのです。ただ、誤解してはならないのは、細菌には「核」がないのではなく、細菌の「核」が「核膜(かくまく)」という膜に包まれていないだけであるということです。つまり、細菌以外のほとんどの生物では「核」が「核膜」に包まれているのに対して、細菌ではその「核膜」がなく、中身(主に DNA)がむき出しで細胞の中に漂っているというわけです。そして、細菌の細胞は小さいながらも盛んに蛋白質を作っており、その中身は大変に物質の密度が高い状態にあります。言い換えれば

   「とても濃い水溶液になっている」

ということです。このことは、後で重要な意味をもってきますから、お忘れにならないようにしてください。


 そして、その「細菌」の表面は膜で包まれているわけですが、ここで「細菌」が「ヒトの細胞」と異なる最大の特徴が出てくるのです。

 つまり、「ヒト(および他の動物)の細胞」が「細胞膜(さいぼうまく)」で包まれているだけなのに対して、ほとんどの「細菌」は「細胞膜」の外側にさらに

   「細胞壁(さいぼうへき)」

という強固な被膜を持っているということです。(ここで「ほとんどの」と書いたのは例外があるからで、細菌の中で唯一、マイコプラズマだけには「細胞壁」がありません。でも、マイコプラズマが傷口に感染するなどということはあり得ないので、ここでは無視して構いません。)


 順番に説明致しましょう。

 細胞には必ず「細胞膜」という被膜があります。それがなければ中身がみんな外へ出てしまうからです。ただ、その「細胞膜」は、以前消毒薬(界面活性剤)の説明の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/23833749.html)で触れましたように、「脂質二重層」でできた極めて脆い膜です。

 また、この「細胞膜」には「半透膜(はんとうまく)」の性質、つまり、水は通すがそれに溶けている塩分や蛋白質など(こういうのを「溶質(ようしつ)」と呼ぶ)は通さないという性質があります。そのため、細胞膜の内側と外側とで溶液の濃度が違っていると「浸透圧(しんとうあつ)」が生じ、「薄い方から濃い方へ水だけが移動する」現象が起こります。

 ですから、細菌のようにとても濃い中身を持つ細胞がもし「細胞膜」しか持っていなかったとしたら、外から水がどんどん入り込んできて、しまいには破裂してしまう(こういう現象を「溶菌(ようきん)」と呼ぶ)ことでしょう。そうならずに済んでいるのは、とりもなおさず、堅固な「細胞壁」に覆われているからなのです。

 この「細胞壁」は「プロテオグリカン」と呼ばれる物質でできており、細菌の大きさや形を保つ役割を持つだけでなく、外界からの刺激や環境の変化などから細菌を守る効果を果たしています。ですから、細菌は様々な環境においても生存することができているのです。

 言ってみれば、「細菌」は「細胞壁」という

   鎧(よろい)で身を守っているようなもの

であり、それに対して「ヒトの細胞」は

   裸でいるようなもの

なのです。

 まずは、この事実をしっかり押さえておきましょう。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ

消毒について(6) ー 神話1「消毒は傷をキレイ(清潔)にする」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 消毒について一般の方が信じていらっしゃるであろう「神話」の一つ目は、

   「消毒は傷をキレイ(清潔)にする」

というものです。

 これは、詳しく言えば「消毒薬を傷口に塗ると、バイ菌(細菌)を殺すと同時に細菌もろとも消えてなくなり、あたかも最初から細菌がいなかったかのような状態にしてくれる」という幻想です。

 「幻想」と書いたのはもちろん間違っているからであるわけですが、一般にはどうにもこういったいいことずくめの効果を消毒に求めている方が多いのです。


 これは例えて言えば、テレビゲームの中の

   シューティングゲーム(STG)のようなもの

です。

 STGでは、敵の戦闘機をミサイルで撃墜したり、異星人を銃弾で倒したりするわけですが、ほとんどのゲームでは標的に弾が当たると同時に標的も弾も跡形もなく消え去って、あたかも初めから何もなかったかのような状態になります。

 ですが、現実にはそんなことにはならないことは誰でもおわかりになるでしょう。敵を倒せば当然その残骸だの死骸だのが残りますし、撃った弾だって決してひとりでに消えたりはせず、その場に残るはずです。それがそういう風になっていないのは、ゲーム画面を見やすくするなどの理由でそうしているに過ぎないわけです。

 なのに、消毒についてもそういったSTGのような感覚で考えがちなのは、実に不思議です。


 つまりは、消毒薬で細菌を殺しても、決して何もなくなるわけではなく、細菌の死骸と消毒薬(またはそれが変化したもの)が傷口に残存することになるのです。

 これは極めて

   当たり前

のことなのですが、実際にはこの当たり前であるべきことが充分に認識されているとは言えないのです。


 では、現実にはどういうことが起こっているかと言うと、消毒薬を傷口に塗ると細菌の死骸と消毒薬(またはそれが変化したもの)が残ります。そのうち、細菌の死骸は量として大したことはなく、生体にとっても容易に処理できるものですからあまり問題になりません。むしろ問題なのは、もう一つの方です。

 消毒薬の説明の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/24897970.html)でも述べましたが、消毒薬のうち、作用後に有害物質を何も残さないのは

   過酸化水素だけ

です。つまりは、他の消毒薬はなにがしか有毒な化学物質が残るのです。実際には過酸化水素の殺菌力は弱く、それだけで細菌を充分に殺すのは無理ですので、ほとんどの場合は他の消毒薬が使われることになります。そして、傷口にはその消毒薬(またはそれが変化したもの)が付着したままとなるのです。これが「キレイ」(清潔)になったと言えるでしょうか? いいえ、これはもう、「汚染された」と表現するより他にありません。

 そうなると、当然の結論として、

   「消毒は傷を(有毒な)化学物質で汚染する」

というのが真実と言わなければならないのです。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



人気ブログランキングへ
livedoor プロフィール