新・美爪通信

 爪に関心のあるすべてのかたに贈る「爪の総合情報ブログ」です。巻き爪、陥入爪など、爪に関することなら何でもとりあげるだけでなく、時には寄り道をして、医学一般の話も加えて参ります。

巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(8) ー 肉芽処置(中編) ー 腐った下水管を放置して汚泥掃除ばかりする

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 「単なる肉芽処置」に過ぎないと考えられる処置の主なものを挙げると、次のようになります。

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   A.肉芽だけを除去するもの

     A-1.メスによる切除

     A-2.レーザーによる焼灼

   B.肉芽以外の軟部組織にも影響を及ぼすもの

     B-1.液体窒素などによる凍結

     B-2.薬品による腐蝕


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 これらは、陥入爪で生じる肉芽組織を除去する目的で行われるという点で共通していますが、A.は影響が肉芽だけにとどまるのに対して、B.はそれ以外の皮膚や皮下組織にまで影響が広がりうるという違いがあります。

 いずれも陥入爪の本来の治療としては本末転倒であり、全く無意味な処置でしかないのですが、B.はA.と違って、

   無意味を通り越して有害になる

危険が大きい点で要注意です。


 まず、初めにA.に分類される処置から考えてみましょう。

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A-1.メスによる切除

 これは、「肉芽を除去しよう」という考えからすれば最も単純な方法と言えますが、実際に行われる例はあまり多くないかも知れません。

 なぜかと言えば、出血と痛みが激しいからです。

 肉芽という組織は血流が豊富なため、ちょっとでも傷つけるとすぐに出血します。しかもとても刺激に敏感でもあるのです。そんな組織をメスで切ろうものなら、とても痛いだけでなく、出血が止まらなくなって大変なことになるのは当然です。

 そもそも肉芽というものは「傷を治すため」に作られるものなのですから、それを切りつけて新たな「傷」を作ればさらに肉芽ができるであろうことは明らかであり、考えてみれば愚かしい行為と言えましょう。


A-2.レーザーによる焼灼

 これは、肉芽に炭酸ガスレーザーなどのレーザー光線を当てて急激に加熱し、焼灼・蒸発させて取り除こうとするものです。

 この方法は、血液を加熱凝固しますし、神経も一瞬で焼いてしまうため、出血や痛みが少ないという点でA-1.よりも増しな方法と言えます。

 ただ、レーザー発生装置は全ての医療機関にあるものではなく、主に皮膚科、それも美容に特化したところでなければ置いてないのが普通です。ですから、そういう機器を備えている医療機関でなければ、行いたくても行えない処置です。

 いずれにしろ、この方法もA-1.に比べて苦痛が少ないとは言え、やはり単なる肉芽処置に過ぎない点では何ら変わりはありません。

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 このように、単に肉芽を除去しようという処置は、陥入爪の結果として生じた肉芽組織をただ除いているだけで、肉芽ができる原因となっている「皮膚の傷」に対しては何の働きかけもしていません。

 これは、例えて言うなら、下水管が腐って汚泥が噴き出ているのに、出てきた汚泥のみに気を取られて、

   ひたすら泥掃除ばかりしている状況

に似ています。端から見れば、何とも愚かしいと言うより他にないでしょう。

 なのに、こういった処置をしている医療機関では、その「愚かしさ」を意識することもなく、変わり映えのない行為を繰り返して「それでよし」としてしまっているわけです。

 陥入爪で肉芽が生じている場合には、肉芽そのものよりもまず「皮膚の傷」を治さなければならないのは言うまでもなく、それは丁度、腐った下水管を修理しなければ汚泥の噴出を止められないのと同様なのです。


(続く)

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 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

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 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi@livedoor.com



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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(7) ー 肉芽処置(前編) ー 本末転倒

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 巻き爪や陥入爪に対して、爪を抜いたり、爪の角を切り取ったりすることがいかに誤った処置であるか説明しました。

 次にとりあげるのは、陥入爪で見られる肉芽に対する処置です。つまり、出血や排膿とともに見られる肉芽をなくそうとして行う「治療」というわけです。

 ここまでお読みになってきた方であれば、このような「治療」がほとんど無意味であることに薄々気付かれることと思います。

 ところが、実際には陥入爪を訴えて医療機関を訪ねても、このような「肉芽処置」だけされて「それでよし」とされてしまっているような例は珍しくありません。

 そこで、くどいようですが、まず総論として「肉芽処置」が陥入爪の「治療」と呼ぶに値しない処置であることを説明しておきましょう。


 陥入爪は「爪が肉に食い込んでいる状態」です。そのため、皮膚は爪によって破られて「傷ができている」ことになります。

 ところで、肉芽はなぜできるのかと言えば、それは

   傷を治すため

であることは当然です。肉芽には血管が豊富にあり、傷の部分に皮膚を再生するための「材料」を充分に供給できるようになっているのです。ですから、皮膚にできた傷が治る際には、まず肉芽に覆われ、皮膚が再生されるという段階を経ているのです。

 陥入爪で肉芽が生じるのも皮膚にできた傷を治すためであるわけですが、そのままでは決して傷は治りません。なぜなら、

   食い込んでいる爪が邪魔をしているから

です。肉芽が傷を覆おうとしても、爪ごと覆うわけにはいきませんので、爪に沿って肉芽が増殖するだけになってしまい、いつまで経っても「皮膚の再生」の段階に進むことができないわけなのです。

 つまり、肉芽は陥入爪によって起こった「結果」に過ぎないのです。であれば、増殖した肉芽だけをどう「処置」してみたところで、陥入爪の治癒にはつながらないことは明らかです。おおもとの陥入爪を放っておいて、ただ目立つ肉芽だけを消そうとするのは、原因と結果を弁えない、まさに

   本末転倒

な行為と言わざるを得ません。

 陥入爪を本当に改善したいのであれば、「爪が肉に食い込んでいる状態」そのものを解消しなければならないのです。

 まず、ここのところをしっかり押さえておきましょう。


 そこで次に、現在行われている「肉芽処置」には具体的にどういうものがあるのか、各論的に紹介していくことと致しましょう。

 もし、あなたが今受けていらっしゃる「治療」がそれらに当てはまるとしたら、それは単なる「肉芽処置」であり、根本的解決につながり得ないものである可能性が高いと考えられるのです。その場合は、このまま現在の「治療」を続けていくべきか否かをぜひとも慎重に検討されることをおすすめ致します。

 私の「爪専門外来」でも相談を受け付けておりますので、お迷いの場合はぜひご連絡ください。


(続く)

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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(6) ー 爪の角を切り取る処置(後編) ー 医学書の内容との「矛盾」とその解決

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 陥入爪に対して「爪の角を切り取る処置」がいかに不適切であるかについて説明して参りました。

 ここまでお読みになった方には、もう充分にご納得戴けたことと存じます。


 ですが日本では、いや、世界でも、この「爪の角を切り取る処置」という不適切な「治療」が未だに問題視されることもなく、一般的に行われているのです。これは一体どういうことでしょうか? なぜこのような状況が続いているのでしょうか?

 私はこれまで、過激とも取れる書き方でこの「治療」がいかに不適切であるかについて散々述べて参りました。

 これは、現在そういった「治療」を行い、または受けている方々からのご意見・ご反論をぜひともお伺いしたいとの考えもあって、敢えてしたことでもありました。「何か、私がまだ知らない理由なり利点なりがあるのではないか」という思いもありますし、そうであれば、私こそ考えを改めなければならないからです。

 ですが、残念なことに、いまだに何のコメントも反応もありません。

 これは「全ての読者が私に賛同してくださっている」と解釈していいものでしょうか? いいえ、そんなことはあり得ないでしょう。医学には種々雑多な意見なり主義なりがあるのが常だからです。

 そうなると、恐らくはこれは

   余りにも関心が低いがために反応がない

と考えるのが正しいのでしょう。何とも嘆かわしいことと言わざるを得ません。


 現在、陥入爪に対して「爪の角を切り取る処置」で対処していらっしゃる先生方は、どのような意識をお持ちなのでしょうか? どういった根拠で、そのような「治療」を続けていらっしゃるのでしょうか?

 医師が診療に関する知識を学ぶのはやはり医学の教科書・専門書からと考えるのが自然でしょう。


 ここに、私の出身校の慶應義塾大学の整形外科教授でいらした(2012年からは文化学園大学特任教授)井口傑(いのくち・すぐる)先生が著された『足のクリニック』(南江堂刊、2004年)という本があります。この本は、足の病気のことを専門に扱っている本で、巻き爪・陥入爪についても、かなりの紙面を割いて説明しています。

 少々長くなりますが、この本から陥入爪についての部分を引用させて戴きます。


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陥入爪


 若い男性で、スポーツ選手などに多く、母趾の先が赤く腫れて痛み、浸出液や膿の排出をみる。診断は一目瞭然だが、爪角の部分の皮膚を押すと、激痛があるのが特徴である。母趾の爪角が爪溝から出るときに皮膚に食い込んで、炎症や細菌感染を起こし痛む。腫れと痛みのため、通常の爪切りでは爪角が十分に切除できず、切り残しが槍の穂先状となって、皮膚に食い込む。

 この悪循環を断つために、まずニッパー型の爪切りか、直の眼科剪刀で、爪角を斜めに切り落とす。思い切って刃先を突っ込まないと切り残すので、痛みが強い場合には、キシロカイン®液やゼリーで表面麻酔してから切る。その後は毎日2~3回、微温湯で5分間足浴を行ってから、水中で軟らかいブラシ(使い古しの歯ブラシ)を使い、老廃物を爪溝を中枢から末梢に向かって掃き出す。これにはマッサージ効果もあり、温浴と相まって血行を改善し、腫脹を軽減する。石けんを使ったときは、ぬるま湯のシャワーで十分洗浄してから、タオルで押さえるように拭く。指で爪溝を広げるようにしながら、ドライヤーの冷風で乾燥させる。イソジン®かヒビテン®を1滴爪溝に垂らし浸潤させた後、再びドライヤーの冷風で乾燥させる。浸出液や多少の排膿、出血があっても、応急絆創膏(バンドエイド®)を巻くと爪溝が閉じるので使用しない。洗いざらしの緩めの靴下を1日何回も履き替えさせ、ガーゼを当てるときも、きつく巻かず、包帯も使用しない。爪が伸びて、爪溝から出て、少しでも皮膚から離れるようになるまで、爪は切らない。爪溝から爪が出たら、爪を水平に切る。爪溝の腫れが治まるまでは、1日2、3回の足浴を続け、つま先のきつい靴を避け、清潔を保つ。

 初回であれば、9割がこれで治癒する。何度も繰り返して、爪溝が線維化した肉芽で埋まっていたり、すでに手術が行われていた場合には、手術をせざる得ない
(原文のまま)ことが多い。フェノールや塩化銀で爪溝の外側を焼却して、外側の皮膚を瘢痕性に収縮させ、爪溝を広げる方法がある。爪溝の外側の皮膚を「V」字状に切り取って縫合せず、生の創面を露出させたまま瘢痕性に治癒、収縮させ、爪溝を広げ浅くする手術もある。爪の縁を縦に帯状に切除し、爪溝を「V」字状に肉芽や瘢痕を切り取って縫合することで、爪溝そのものを埋めてしまう手術もある(鬼塚法)。部分抜爪する際、爪の母床を十分に切除しないと、分裂した爪が副爪のようになり、引っ掛かって当たる。爪全体を抜いてしまう全抜爪は、再生爪が前より良い爪になることはないので禁忌である。両端の部分抜爪も、爪がまくれ上がって引っ掛かりやすくなる。


(『足のクリニック -教科書に書けなかった診療のコツ-』105-106頁、 井口傑(いのくち・すぐる)著、南江堂刊、2004年)

(下線、赤文字は宮田篤志による改変)

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 いかがでしょうか?

 医学書のため、一部言い回しが専門的でわかりづらいかと存じますが、だいたいの意味はおわかりになったでしょう。

 この記載を見ると、確かに赤字の下線部で『爪角を斜めに切り落とす』と書いてありますね。それも、足を専門とする整形外科の教授(出版当時)の書かれた医学専門書の記載です。権威から言えば、若輩のしかも専門外である私など足元にも及ばぬ存在であることは間違いありません。

 その医学会の権威と矛盾するような主張を、私は述べてきているわけです。


 皆さんはどうお考えになりますか?

 陥入爪で「爪の角を切り取る処置」は果たして適切なのか、不適切なのか?

 ことによると、

   「医学書にさえ『切り落とす』と書いてあるのだから、一般に行われている『爪の角を切り取る処置』は間違っていないのではないか」

と思われてはいませんか?

 もしそうであるとしたら、ご面倒でも上の引用文をもう一度読み返して戴きたいと思います。それも、

   もし自分が患者だったら

という観点で読んで戴きたいのです。

 ...

 どうでしょうか?

 「陥入爪患者の立場に立って」井口先生の説明をお読みになって、あなたはどのような感想をお持ちになったでしょうか?

 私は、井口先生の書かれた内容と私の主張とは一見矛盾するようであっても、

   重要なところでは決して矛盾していない

と判断しているのです。なぜか、話を先に進めましょう。


 私が考えるに、井口先生の説明には誤解を招きやすい点があると思います。確かに、陥入爪の治療法として『切り落とす』と書かれてはいますが、それは当座の処置として行うだけであまり重要ではなく、本当に重要なのは

  切り落とした後の管理、つまりアフターケアなのです!

 その根拠として、同引用文の中に

  『爪が伸びて、爪溝から出て、

少しでも皮膚から離れるようになるまで、

爪は切らない。』


ときちんと書かれています。つまり、「爪が指先より長くなるまで伸ばす」ことが陥入爪を治す方法であるという点では、私の主張と一致しているのです。

 ただ、引用文を読むと、その点があまり目立って意識されないため、あたかも「爪を切り落とすことが必要である」かのような印象を与えるところが「誤解を招きやすい」と思うのです。

 このことからわかる通り、井口先生も決して「爪の角を切り取る処置」を無条件に奨めていらっしゃるわけではありません。「爪を切り落とすなら、それなりのアフターケアをきちんと行うことが、陥入爪を治すための条件となる」とおっしゃっているのです。

 一般の医療機関で行われている「爪の角を切り取る処置」には、その重要な「アフターケア」が欠けているから、不適切と言わざるを得なくなるわけなのです。

 結局、井口先生の説明も、私の考えと矛盾するものではなかったと言えます。


 では、陥入爪は、この井口先生の説明通りに治療すべきものなのでしょうか?

 いいえ、私はそうは思いません。なぜなら、確かにこの通りに実行すれば陥入爪は治るかも知れませんが、

   書かれている通りに実行するのは不可能に近い

からです。

 考えてもみてください。

 爪の角を切り落とした後、

   『毎日2~3回、微温湯で5分間足浴を行ってから、水中で軟らかいブラシ(使い古しの歯ブラシ)を使い、老廃物を爪溝を中枢から末梢に向かって掃き出』

して、

   『指で爪溝を広げるようにしながら、ドライヤーの冷風で乾燥させ』

て、さらに

   『イソジン®かヒビテン®を1滴爪溝に垂らし浸潤させた後、再びドライヤーの冷風で乾燥させ』

て、その上

   『洗いざらしの緩めの靴下を1日何回も履き替えさせ』

るなどということが現実に実行可能だとお思いになりますでしょうか?

 足の爪は伸びるのが遅いので、指先まで爪が伸びるまで最低3か月、長ければ半年から1年もかかってしまうでしょう。そんなに長い期間、上に挙げたような煩雑で時間と手間のかかる管理を毎日続けて行く自信が、あなたにはありますか?

 少なくとも、私にはとてもできそうにありません。

 入院患者か、よほど暇を持て余している人でもない限り、このような管理をしろと言われても、数日でイヤになってほったらかしになってしまうのは目に見えています。

 すると、結局どうなるかと言えば、爪の角を切り落とした後、爪の行く手はせり出してきた肉に遮られてしまい、さらなる陥入爪の悪化につながってしまうわけです。


 結論としては、やはり

   陥入爪に対して「爪の角を切り取る」のは不適切である

と言う他にないのです。

 陥入爪の最善の治療は

   「爪をできるだけ切らずに、

肉に食い込まないようにしながら、

指先まで伸ばすこと」

であるべきなのです。


 私の「爪専門外来」では、そのようにして治療を行っております。ご希望の方はぜひご相談ください。


(続く)

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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(5) ー 爪の角を切り取る処置(中編) ー 肉の中に潜む「爪棘(ソウキョク)」の恐怖

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 陥入爪で痛みがひどいときに「爪の角を切り取る処置」をすることが、決して陥入爪自体の改善につながらないことを説明しました。

 陥入爪において、「治った」とか「治癒した」と言える状態というのは、

   爪が指先まで幅一杯に伸びている状態

を言うのでなければならないからです。

 そうでなく、爪の角を切り込んでしまっている状態というのは、例え痛みや出血が治まっていたとしても、それは一時的であり、言わば

   まやかしの治癒

なのです。なぜなら、いずれ爪が伸びてくればまた痛みや出血が再発することが目に見えているからです。


 しかも、この「爪の角を切り取る処置」は単に治癒を遠ざけるにとどまらず、さらなる悪化にもつながる恐れが非常に大きいのです。ただの「足踏み」や「同じことの繰り返し」では済まなくなるのです。


 考えてもみてください。

 陥入爪で爪の角を切り取ったら、それまで爪が食い込んでいた肉はどうなるでしょうか?

 今まで爪の角によって傷つけられながらも押し広げられていた肉は、いざ爪がなくなったときに、そのままの位置でとどまっていてくれるものでしょうか?

 いいえ、とてもそうは思えません。爪の角を切り取ってしまえば、それまで押しのけられていた肉が、これ幸いとばかりにせり出してくるに決まっています。しかも、傷ついていた肉ともなれば、その傷がふさがると同時に肉が盛り上がり、さらに爪の行く手にせり出してくるであろうことが容易に予想されます。

 そうなるとどういう結果になるかと言えば、爪の角を切り取ると、それまで爪によって確保されていた「爪が伸びるために必要なスペース」が狭まることとなるのです。つまり、今度は前よりも

   もっと根元に近いところで爪が肉に食い込む

ことになってしまうわけです。

 これを

   「悪化」

と呼ばずして、何と呼ぶべきでしょうか。


 つまりは、爪の角を切り取ると、また一段と治癒から遠ざかってしまうことになるのです。しかも、同様の処置を繰り返し受ければ、同じ理屈で爪が根元近くで肉に食い込むようになっていき、その分だけ難治化してしまうわけなのです。


 しかも、話はまだこれで終わりではありません。「爪の角を切り取る処置」には、ややもすると大変恐ろしいことになる危険が潜んでいるのです。


 これまでの話は、爪の角を「うまく」切り取れていることを前提に進めてきました。つまり、「滑らかな流線形」とまでは行かなくても、あまり角張らずに(つまり角の角度が鈍角になるように)切り取るということです。

   「そんなの当然じゃないか」

   「簡単だろ、そんなこと」

と思われる方が多いことでしょう。ですが、現実にはそんなに簡単なことではないのです。

 爪の角を「うまく」切り取れなかった場合にどんな恐ろしいことが起こるか、皆さんにはぜひとも知っておいて戴きたいのです。安易に「爪の角を切り取ろう」となさらないために。


 陥入爪に陥った爪の角というものは、肉に食い込んでいるわけですからそのままの状態では目に見えません。陥入の程度が軽ければ、肉を押し広げることで爪の角を露出することができる場合もありますが、大抵の場合は肉の中に意外に深く埋もれていて、麻酔でもしなければなかなか爪の角を直に見ることができないのです。

 そういった状況で爪の角を切り落とすことは、実際にはとても難しいのです。「滑らかな流線形に切る」ことなどはまず不可能であり、「直線状に斜めに切り落とす」ことすらなかなかできません。「できた」と思っても、ほとんどは失敗であり、爪の断端には直角に近い角ができてしまっています。これでは、その角がまた陥入爪を引きおこすことは避けられません。

 ところが、

   下手をすると、もっと悲惨な結果になる

こともあるのです!

 爪が「縦・横・縦」の3層構造になっていることは、すでに説明しました。そこから考えると、

   爪は縦に裂けやすい

と言えます。このことはとても重要ですので覚えていてください。

 陥入爪で肉に埋もれている部分の爪は、水分を大量に吸ってふやけてもろくなっています。そのため、通常の爪よりも裂けやすい状態にあります。

 そこで、今、爪の角を切り落とそうとしてニッパーで切り進めたとしましょう。ちゃんと、爪の縁まで刃先を充分に進めて切れればよいのですが、ただでさえ痛くて敏感なところにニッパーの刃先を突っ込むのですから、患者の苦痛は並ではありません。しかも、爪は意外に深く食い込んでいることが多いため、相当深く切り進めても完全に切り落とせないことがあるのです。

 すると、どういうことになるでしょうか?

 もう切り取るべき爪の一部はブラブラしてすぐにでも取れそうなのに、まだ完全に切り落とせていない状況におかれた場合、あなたはどうしますか?

   「もう充分に切れただろう」

と思いませんか? 痛みに耐えかねて泣き叫ぶ患者を前に、さらにニッパーを肉の奥深くへ突っ込むのは医師としても辛いものがあります。自分で爪の角を切り取ろうとしている場合でしたら、なおさらそう思いたくなるのも理解できます。そうなると、きっとこう思うに違いありません。

   「ええい、もう力任せにちぎってしまえ!」

そして、充分に切れてもいないのに、無理矢理ちぎり取ってしまうことが往々にしてあるのです。それが、恐ろしい「悪魔の囁き」であることにも気付かずに・・・。

 完全に切れていない爪を無理矢理ちぎると、どういうちぎれ方をするか、あなたはもうおわかりでしょう。

 そうです。

   爪は縦に裂けやすい

のですから、爪の角には爪が裂けてできた「割り箸の割れ残り」のようなトゲ状の部分が残ってしまうのです。これを

   「爪棘(ソウキョク)」

と呼びます。

 この爪棘ができてしまうと大変です。

 何しろ、肉の中に楊枝のようなトゲが埋まっているも同然なのです。その痛み・苦しみは筆舌に尽くしがたいものです。普通に歩くなどとても叶わず、指先に何かが触れただけでも悲鳴を上げるようになってしまい、靴も靴下も履けず、誰かにおんぶしてもらわなければトイレにさえ行けなくなってしまうこともあります。人によっては、爪棘が皮膚を突き破って指先から露出してしまうことさえあるのです。


 恐ろしいとはお思いになりませんか? 中には

   「読んでいるだけで足の指が痛くなってきた」

という方もいらっしゃるかも知れません。

 もう、ここまで言えば充分でしょう。

 あなたが陥入爪で苦しんでいらっしゃるなら、「爪の角を切り取る」ことでごまかすのはおやめください。

 「爪を切ることなく、爪を伸ばして行ける治療」をぜひお受けになってください。


 もちろん、私の爪専門外来でもお受け戴けます。遠慮なくご相談ください。


(続く)

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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(4) ー 爪の角を切り取る処置(前編) ー 治癒を遠ざける愚かな行為

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 巻き爪・陥入爪に対して、肉に食い込んでいる爪の角を切り取るという処置が行われることがあります。実を言えば、私自身も同様の処置を「有益な治療」と信じて患者に施行していたことがありました。

 ですが、これは一見有益のように見えて、実は治癒を妨げている有害な処置なのです。このことは、以前「賽の河原」や「シシュフォスの神話」の例えを挙げて説明した通りです。

 ところが、残念なことにこういった「爪の角を切り取る処置」は現在でも広く行われているのです。しかも、している側もされている側も、何の疑問も感じずにいるのです。実際には、こういう処置を受けても一時的に痛みが緩和されるだけで、爪が伸びてくれば、また同じように痛くなって同様の処置を繰り返すことになってしまうのですが、不思議なことに、それについて患者が怒ったり騒いだりしたという例はあまり聞きません。むしろ、

   「痛みが取れて感謝している」

とおっしゃる患者までいるくらいです。

 なぜ、皆さんは疑問に思われないのでしょうか? 同じ処置をただ繰り返しているだけで、「出口が見えない状況」にいるというのに、どうしてそのままでいいとしてしまえるのでしょうか?

   私は不思議でなりません。

 それなのに、現時点では巻き爪・陥入爪で痛みを訴えて医療機関を受診すると、多くの場合、当たり前の如く

   「切りますね~」

などと言われて、爪の角を切除されてしまうのです。「足専門外来」と名乗っている特殊外来ですら、例外ではありません。


 そこで、こういった「爪の角を切り取る」という「治療」がいかに不適切なのか、ここで改めて説明し直しておくことと致します。

 (なお、ここで「爪縁切除」と書かずにわざわざ「爪の角を切り取る処置」などという長ったらしい書き方をしたのは、「爪縁切除」と書くと、後で出てくる手術療法のことと混同する恐れがあるからです。ここでは、肉に食い込んでいる部分の爪だけをニッパーや鋏で切り取る処置についてのみ考えることとします。)


 まず、巻き爪・陥入爪で痛みを訴える場合というのは、ほぼ例外なく爪の一部が肉に食い込んでいます。つまり、巻き爪の有無にかかわらず、陥入爪は確実に起こしているということです。ですから、ここでは陥入爪があることを前提に話を進めることとしましょう。


 陥入爪とは「爪の一部が肉に食い込んでいる状態」のことです。そして、それは深爪が主な原因であり、指の先よりも爪が短い状態から起こります。


 爪が指先よりも長く伸びていれば、周囲の肉は爪に押しのけられているので、

   爪の幅いっぱいのスペースが確保されている状態

となります。この状態であれば、通常は陥入爪は発生しないわけです。

 ところが、爪が指先よりも短くなってしまうと、爪で押しのけられていない部分の肉は内側へせり出してきて、爪の行く手を遮る形となります。

 その状態で爪が伸びていくと、どんなことが起こるでしょうか?

 爪の行く手は、肉がせりだしているせいで、爪の幅よりも狭いスペースしかない状態になっていますから、爪が伸びていくためには、邪魔な肉を押しのけていかなければなりません。

 そのとき、爪の先端の角が滑らかな流線形になっていれば、肉を傷つけずにうまく押し広げることができるかも知れません。ですが、少しでも角張っていたり、ましてや尖(トガ)っていたりしようものなら、爪の角が肉に引っかかってしまうのは当然と言えます。そうなると、爪が伸びていくにつれて肉が引っ張られ、最後には引き裂かれてしまうことになるのです。これが

   陥入爪の発生

です。


 こう考えると、こんな状態で「爪の角を切り取る」ということが、いかに愚かしい行為であるかよくおわかりになるでしょう。

 大事なことは、食い込んでいる爪を取り除くことなどではなく、逆に、爪の行く手を邪魔している肉を押しのけて

   爪が幅いっぱいに伸びることのできるスペースを確保すること

でなければならないのです!

 陥入爪で「爪の角を切り取る処置」をするということは、爪の行く手をさらに狭める結果につながるだけなのです!

 ですから、皆さんには、陥入爪で痛みが激しいからと言って、安易に爪の角を切り取って楽になろうとせずに、ぜひとも根本的な治癒へ向けて正しい治療を受けて戴きたいのです。


 では、この「爪の角を切り取る処置」の不適切な点は、単に「その場凌ぎ」や「問題の先送り」というだけの問題でしょうか?

 いいえ、違います。

 実はこの処置には、陥入爪を改善しないばかりか、さらに難治化・重症化させる危険が伴うのです。

 どういうことなのか、さらに話を進めることと致しましょう。


(続く)

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 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

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                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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『ナメクジの原理』 ー 爪の置かれている特殊な境遇

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『ナメクジの原理』

 ナメクジと同様に、爪は本来属している分野でさえ「仲間」と見なされず、あらゆるところから冷遇されやすい存在である。
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 ある日、1匹のナメクジが体調不良を訴えて病院を受診しました。

 ところが、病院の玄関で早くも迷ってしまいました。

   どの科を受診すればいいのか、わからなかったから

です。見ると、「鳥科」、「哺乳類科」、「魚科」、「昆虫科」、「爬虫類科」、「両生類科」など、様々な科が並んでいます。いったい、ナメクジは何科を受診するのがいいのでしょうか?


 困ったナメクジは、受付に行って自分がかかるべき科を調べてもらいました。すると、何と

   ナメクジは「貝の仲間」である

ことがわかったのです。

 そこで、早速ナメクジは「貝科」を受診することにしました。ところが、いざ診察室に入ってみると、どの医師からも

   「うちではわからない」

とか

   「ここでは診られない」

とか言われるばかりで、ろくに診てももらえずに門前払いされてしまいました。


 困り果てたナメクジは、しかたなく、見た目が似ている「環形動物(ミミズやヒルの仲間)科」に診てもらうことになってしまいました。


 いかがでしょうか? おかしいとは思いませんか?


 ナメクジは本来、貝の仲間(マイマイ目)なのです。陸生の巻き貝なのです。それがただ、殻が退化してなくなってしまっただけなのです。他にも、ウミウシという動物がいますが、これも殻が退化した貝の仲間です。

 ですが、貝類という観点から見ると、どうしても

   殻のない貝なんて、甲羅のないカメのようなもの

というような感覚にとらわれ、ナメクジのようなものは貝の仲間に入らないように思えてしまいます。

 そのため、本来責任を持つべきところから拒絶されて、やむなく専門外のところに任せなければならなくなってしまったわけです。


 こんな例え話を持ち出したのは他でもありません。

 他ならぬ爪が医療機関で、丁度、上記のナメクジのような扱いを受けているからなのです。


 爪は、前にも一度説明しました通り皮膚の付属器とされていて、

   扱う専門科は皮膚科

と決まっているのです。

 それなのに、爪の問題を抱えて皮膚科を受診しても、専門であるにもかかわらず

   「うちではわからない」

とか

   「ここでは診られない」

などと言われて診てもらえない事例が多々あるのが現状なのです。大学病院の教授外来ですら、例外ではありません。

 そのため、爪疾患の患者はやむなく整形外科や外科を頼らざるを得なくなることにもなるのです。

 これは、ひとえに、爪が

   「皮膚科の分野である」と充分に認識されていない

ことによると思われるのです。まるでナメクジが「貝の仲間である」と充分に認識されていないように。


 これからは、爪の問題も皮膚科で充分に対処できるようになって欲しいものだと思いますし、強いて言えば、

   「それが当然である」

はずなのです。


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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(3) ー 抜爪(後編) ー 「レール」を失った爪の悲劇

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 巻き爪・陥入爪に対して行われる抜爪という「治療」が、本来の「治療」という名に値しない処置であることを説明しました。では、抜爪は単に「現状を改善しない」だけなのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。

 実は、抜爪はほとんどの場合

   爪を以前より醜くする

有害な処置なのです。


 まず、ここで知っておいて戴きたいのは、爪というものは

   造られた直後は軟らかい

ということです。つまり、爪が伸びるのは

   軟らかい餅を押し出すようなもの

なのです。押し出された後で冷えて固まると餅も硬い板のようになりますが、その根元では軟らかい状態にあるように、爪も見える部分は硬い板状になっていますが、爪母(爪が造られる部分)の近くではまだ充分に硬くなってはいないのです。

 一般の方が持っていらっしゃる爪の伸び方のイメージは、初めから硬い爪の板ができていてそれを送り出すような、例えて言えば

   カッターナイフの刃を押し出すようなもの

ではないかと思われますが、実際の爪はそうではないのです。

 ですから、爪が伸びる際には、できるだけ同じ速さで滞りなく伸びていけるようになっていないと、厚さや向きが容易に変わってしまうわけなのです。


 では、なぜ私たちの爪はこうも整った形で伸びていられるのでしょうか?

 今、生えている爪がそれなりに美しい形態を保っていられるのは、生まれてから何年・何十年と伸び続けてきた爪が

   言わば「レール」のような役割を果たしている

からなのです。すでにある爪が、厚さや伸びる方向を決める働きをしてくれているおかげで、これから生えてくる爪も「道を外さずに」済んでいるわけなのです。


 ところが、抜爪という処置は、こういった「レール」を

   完全に破壊する行為に他ならない

のです。

 その結果、新しく生えてきた爪は従うべき「レール」を失って、曲がったり、歪んだり、分厚く変形したりして、元の爪より

   確実に醜悪なものと化してしまう

わけです。そして、こうなってしまうと、もういかなる手段を用いても元に戻すことは不可能です。

 ですから、抜爪という処置は、「これをしなければ指の切断もあり得る」というくらいの切羽詰まった状況でない限り、してはならないものなのです。


 もし、あなたが巻き爪・陥入爪のために抜爪をすすめられたら、決して即決せず、ぜひともよく検討されることを強く望みます。ほとんどの場合、抜爪などせずに治療する方法があると思うからです。

 お迷いの場合には、ぜひ、爪専門外来など、お近くの然るべき医療機関にご相談ください。


(続く)

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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(2) ー 抜爪(中編) ー 「治療」の名に値しない

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 巻き爪・陥入爪に行われている不適切な「治療」の筆頭が抜爪であることを述べました。では、抜爪はどのような点で「不適切」なのでしょうか?


 まず、この「抜爪」という処置が本来の「治療」と言えるものなのかが問題となります。

 前回の記事で、私は爪のことを歯に例えました。ですが、爪と歯とでは決定的に異なることがあるのです。それは、

   爪は抜いてもまた生えてくる

ということです。

 歯であれば、抜いたらもう生えては来ませんから、どんなにひどい虫歯でも抜いてしまえばとりあえず痛みは治まり、二度と虫歯になることはありません。ですから、虫歯に関する限りは、「抜く」という処置は「治療行為」と呼ぶことができるものと言えるでしょう(それが「最善かどうか」はまた話が別です)。

 ですが、爪というものは、歯と違って抜いても何度でもまた生えてくるのです。この違いは極めて重要です。

 巻き爪で医療機関にかかろうという方の場合、大抵は爪の根元まで彎曲しています。ですから、そういう方の場合は

   爪は生える前からすでに巻いている

と言えるのです。つまり、爪を造る「爪母(ソウボ)」という部分の形がすでに彎曲してしまっているわけです。

 そんな状態の人に対して抜爪をすることが、果たして「治療」と呼べるのでしょうか?

 「治療」と呼べるためには、少なくとも

   前の状態よりも改善していなければならない

はずです。

 ところが、巻き爪の場合は爪を抜いたところで爪母の形態が変わるわけではありませんので、また同じように彎曲した爪が生えてくるのは当然と言えます。これでは「改善している」とは到底言えません。

 陥入爪の場合でも、爪が食い込むほどせり出した肉(軟部組織)が残っている限り、新しくまた生えてきた爪がそこまで伸びれば、また食い込むことは目に見えています。実際、何度も抜爪を繰り返している例では、陥入爪の再発率は

   何と100%

という報告があります。そうなってしまった人は、これからも爪が生えるたびに抜爪を繰り返さなければならないのです。それも、生きている限りずっとです。

 悲惨だとはお思いになりませんか?


 つまりは、「抜爪」という処置は巻き爪・陥入爪を改善しないので、「治療」と呼ぶには値しないものと言わざるを得ないのです。強いて抜爪に「治療的価値」を見いだそうとするならば、「爪がまた生えてくるまでの間、一時的に症状を緩和する」ということくらいしかありません。ですが、こんなことは「麻酔をかけて一時的に痛みを止めている」のと似たようなものでしかなく、他に治療手段がないならともかく、こと巻き爪・陥入爪に関しては全く顧みる価値はありません。


 巻き爪・陥入爪の「治療」と言うからには、一時的でなく、爪が伸びても痛くなったりしない状態へ持って行くものでなければならないのです。


 では、抜爪が不適切である理由は「現状を改善しないから」だけでしょうか?

 いいえ、とんでもないことです。実は抜爪という「治療」は現状を「改善しない」どころか「もっと悪くする」恐れが多分にある、大変に弊害の多い処置なのです。


 どういうことか、さらに話を進めましょう。


(続く)


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巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」(1) ー 抜爪(前編) ー 一見「根本的解決」に思えるが・・・

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 これまで、爪についての基礎的な話を中心に記事を連載して参りました。爪の病気とその治療法を理解するためには、ぜひとも知っておいて戴きたいことだったからです。

 ですが、現時点で爪の問題を抱えていらっしゃる方にとっては、些かくどい印象があったかも知れません。中には、

   「もう一般論はいい加減にして具体的な治療の話に入れ」

とお思いの方もいらっしゃることでしょう。

 そこで、ここからはいよいよ爪治療の実際についての説明に入っていくことと致します。


 ですが、適切な爪治療について説明を始める前に、まず、大部分の医療機関で現在行われている「治療」のうち、受けない方がよい不適切なものから先に説明しておきたいと思います。なぜなら、こういった不適切な「治療」は一旦受けてしまうと治癒が長引いたり、場合によっては、二度と元に戻せない弊害をもたらすこともあるからです。

 皆さんには、少なくともここで挙げる「治療」を受けることがないようにするために、先にご紹介しておくことにするわけです。

 もし、現在すでに同じ「治療」を受けている方がいらっしゃいましたら、ぜひとも一度よく検討されることをおすすめ致します。お迷いの場合は、遠慮なく私の爪専門外来にご相談ください。その「治療」を継続すべきかどうか、意見を述べさせて戴きます。

 なお、ここで「治療」とわざわざカギ括弧をつけている理由は、これから挙げる処置が本当に「治療」と呼べるものなのかどうかがそもそも問題であるからです。具体的には、各項目で詳しく説明して参ります。


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 まず、巻き爪・陥入爪の不適切な「治療」として筆頭に挙げなければならないのは、

   抜爪(つまり、爪を抜くこと)

です。

 但し、ひどい陥入爪で瘭疽や骨髄炎などを起こしている場合には、やむを得ず抜爪を行うことがあります。ですが、よほど放置していない限りそのようなことは起こらず、抜爪などしなくても治療可能なことがほとんどです。ましてや、ただの巻き爪(陥入爪を合併していない)なら、抜爪を要する場合は全くありません。

 抜爪という「治療」は、以前はかなり盛んに行われていたそうです。特に年配の医師で昔軍医をされていたというような先生ですと、陥入爪を見て

   「あぁ、これはもう抜かなきゃ駄目だなぁ」

と言って、麻酔もなしに爪を抜いてしまうということが実際にあるということです。

 歯科医にも「すぐ歯を抜こうとする先生」と「できるだけ抜かずに頑張ろうとする先生」とがいらっしゃいますが、皮膚科医にも同じように「すぐ爪を抜こうとする先生」が一部にいらっしゃるようです。

 考えようによっては、抜爪は

   一見、根本的解決のように思える

方法であり、しかも手技もそう難しくないため、安易に行われるのもわからなくはありません。時には、患者の側から抜爪を希望する場合さえあるくらいです。

 ですが、この抜爪という方法は、後先のことを考えない、まさに

   「後は野となれ山となれ」的な処置

なのです! その場は確かに辛い痛みから解放されて清々しい気分を味わえるかも知れませんが、後になればまた同じような痛みに苦しまなければならなくなるのです。いや、場合によっては、

   もっとひどい目に遭う

ことすら少なくないのです。

 つまりは、この抜爪という処置は単なる「その場しのぎ」でしかなく、後で患者が苦しむことを考えると、「その場しのぎ」よりももっと悪いとも言えるのです。


 どのように「悪い」のか、これから具体的に説明して参りましょう。


(続く)

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巻き爪・陥入爪の適切な治療はどこで受けられるか? ー まだまだ少ない登録施設

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 ここまでの記事をお読みくださった方は、恐らく

   「では、実際に治療を受けるにはどうしたらいいのか?」

という疑問を持たれることと思います。中には、

   「すぐにでも治療を受けたい」

という方もいらっしゃることでしょう。


 ですが、現在のところ、爪疾患の診療に積極的に取り組んでいる医療機関はまだとても少ないのです。

 ただやみくもに「皮膚科」や「整形外科」の標榜だけを頼りに受診しても、適切な治療を受けられる可能性は10に1つ、いや、100に1つもないでしょう。


 現在、巻き爪の適切な治療に不可欠な(と私が確信している)『マチワイヤ』(別名『超弾性ワイヤー』とも呼ばれる、形状記憶合金の針金)を使用している医療機関は、製造元の

   有限会社多摩メディカル(ホームページ:http://tama-medical.com/

に登録することができるようになっているので、ホームページから検索すれば、地域別に調べることができます。

 その登録情報(平成24年10月3日現在)によると約1000施設が登録されているのですが、地域によってその数の差が激しく、大部分が大都市に集中しているのが現状です。

 例えば、東京都にはもちろん数多くの登録施設があるわけですが、その大部分が23区に集中していて、東京市部になるともう大幅に減ってしまうのです。

 私がいる神奈川県では、横浜市への集中が著しく、そこには何と48施設もあるのに、他の地域では川崎市の16施設を除けば全て1桁であり、以下、横須賀市(8)、相模原市(6)、小田原市(4)、藤沢市(4)、海老名市(3)、大和市(2)、厚木市(2)、秦野市(2)、平塚市(1)、寒川町(1)というのが現状(括弧内は登録施設数)なのです(私のいる「医療法人健齢会ふれあい平塚ホスピタル」は現在登録申請中)。つまり、それ以外の地域には

   1箇所もない

ということになるのです。

 これでは、人によっては、地元の市町村の医療機関を受診する限り、適切な治療を受けられる可能性は「100に1つ」どころか

   全くない

ことになってしまいます。

 爪に対する医療機関の関心がいかに低調かがよくわかろうというものです。


 ですから、皆さんはむやみに近くの医療機関を受診することなく、まず(有)多摩メディカルのホームページ(http://tama-medical.com/)などを参考にして、よくお調べになることをおすすめ致します。


 少なくとも、「とりあえず、一度治療を受けてから判断しよう」というお考えはおやめください

 こと爪に関する限り、不適切な「治療」を一度でも受けてしまうとかえって悪化してしまったり、ひどい場合には

   もう元に戻せなくなる

ことすら珍しくないのです。そして、現時点では大部分の医療機関でまだそのような不適切な「治療」が当たり前のように行われているのです。

 ただ、誤解して戴きたくないのは、そのような医療機関も決して悪意があってそうしているのではないのです。適切な治療手段をまだ知らないだけなのです。そして、私自身もかつてはそうであったのです。ですから、もしあなたが当事者であるとしても、ゆめゆめ責めたりなさらないようお願い申し上げます。


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プロフィール

宮田 篤志(みやた・あつし)

 神奈川県平塚市の病院に勤めている勤務医です。
 内科医でありながら、爪の医療にのめり込み、爪専門外来を開いています。巻き爪、陥入爪など、爪のことなら何でもご相談ください。