陥入爪で痛みがひどいときに「爪の角を切り取る処置」をすることが、決して陥入爪自体の改善につながらないことを説明しました。
陥入爪において、「治った」とか「治癒した」と言える状態というのは、
爪が指先まで幅一杯に伸びている状態
を言うのでなければならないからです。
そうでなく、爪の角を切り込んでしまっている状態というのは、例え痛みや出血が治まっていたとしても、それは一時的であり、言わば
まやかしの治癒
なのです。なぜなら、いずれ爪が伸びてくればまた痛みや出血が再発することが目に見えているからです。
しかも、この「爪の角を切り取る処置」は単に治癒を遠ざけるにとどまらず、さらなる悪化にもつながる恐れが非常に大きいのです。ただの「足踏み」や「同じことの繰り返し」では済まなくなるのです。
考えてもみてください。
陥入爪で爪の角を切り取ったら、それまで爪が食い込んでいた肉はどうなるでしょうか?
今まで爪の角によって傷つけられながらも押し広げられていた肉は、いざ爪がなくなったときに、そのままの位置でとどまっていてくれるものでしょうか?
いいえ、とてもそうは思えません。爪の角を切り取ってしまえば、それまで押しのけられていた肉が、これ幸いとばかりにせり出してくるに決まっています。しかも、傷ついていた肉ともなれば、その傷がふさがると同時に肉が盛り上がり、さらに爪の行く手にせり出してくるであろうことが容易に予想されます。
そうなるとどういう結果になるかと言えば、爪の角を切り取ると、それまで爪によって確保されていた「爪が伸びるために必要なスペース」が狭まることとなるのです。つまり、今度は前よりも
もっと根元に近いところで爪が肉に食い込む
ことになってしまうわけです。
これを
「悪化」
と呼ばずして、何と呼ぶべきでしょうか。
つまりは、爪の角を切り取ると、また一段と治癒から遠ざかってしまうことになるのです。しかも、同様の処置を繰り返し受ければ、同じ理屈で爪が根元近くで肉に食い込むようになっていき、その分だけ難治化してしまうわけなのです。
しかも、話はまだこれで終わりではありません。「爪の角を切り取る処置」には、ややもすると大変恐ろしいことになる危険が潜んでいるのです。
これまでの話は、爪の角を「うまく」切り取れていることを前提に進めてきました。つまり、「滑らかな流線形」とまでは行かなくても、あまり角張らずに(つまり角の角度が鈍角になるように)切り取るということです。
「そんなの当然じゃないか」
「簡単だろ、そんなこと」
と思われる方が多いことでしょう。ですが、現実にはそんなに簡単なことではないのです。
爪の角を「うまく」切り取れなかった場合にどんな恐ろしいことが起こるか、皆さんにはぜひとも知っておいて戴きたいのです。安易に「爪の角を切り取ろう」となさらないために。
陥入爪に陥った爪の角というものは、肉に食い込んでいるわけですからそのままの状態では目に見えません。陥入の程度が軽ければ、肉を押し広げることで爪の角を露出することができる場合もありますが、大抵の場合は肉の中に意外に深く埋もれていて、麻酔でもしなければなかなか爪の角を直に見ることができないのです。
そういった状況で爪の角を切り落とすことは、実際にはとても難しいのです。「滑らかな流線形に切る」ことなどはまず不可能であり、「直線状に斜めに切り落とす」ことすらなかなかできません。「できた」と思っても、ほとんどは失敗であり、爪の断端には直角に近い角ができてしまっています。これでは、その角がまた陥入爪を引きおこすことは避けられません。
ところが、
下手をすると、もっと悲惨な結果になる
こともあるのです!
爪が「縦・横・縦」の3層構造になっていることは、すでに説明しました。そこから考えると、
爪は縦に裂けやすい
と言えます。このことはとても重要ですので覚えていてください。
陥入爪で肉に埋もれている部分の爪は、水分を大量に吸ってふやけてもろくなっています。そのため、通常の爪よりも裂けやすい状態にあります。
そこで、今、爪の角を切り落とそうとしてニッパーで切り進めたとしましょう。ちゃんと、爪の縁まで刃先を充分に進めて切れればよいのですが、ただでさえ痛くて敏感なところにニッパーの刃先を突っ込むのですから、患者の苦痛は並ではありません。しかも、爪は意外に深く食い込んでいることが多いため、相当深く切り進めても完全に切り落とせないことがあるのです。
すると、どういうことになるでしょうか?
もう切り取るべき爪の一部はブラブラしてすぐにでも取れそうなのに、まだ完全に切り落とせていない状況におかれた場合、あなたはどうしますか?
「もう充分に切れただろう」
と思いませんか? 痛みに耐えかねて泣き叫ぶ患者を前に、さらにニッパーを肉の奥深くへ突っ込むのは医師としても辛いものがあります。自分で爪の角を切り取ろうとしている場合でしたら、なおさらそう思いたくなるのも理解できます。そうなると、きっとこう思うに違いありません。
「ええい、もう力任せにちぎってしまえ!」
そして、充分に切れてもいないのに、無理矢理ちぎり取ってしまうことが往々にしてあるのです。それが、恐ろしい「悪魔の囁き」であることにも気付かずに・・・。
完全に切れていない爪を無理矢理ちぎると、どういうちぎれ方をするか、あなたはもうおわかりでしょう。
そうです。
爪は縦に裂けやすい
のですから、爪の角には爪が裂けてできた「割り箸の割れ残り」のようなトゲ状の部分が残ってしまうのです。これを
「爪棘(ソウキョク)」
と呼びます。
この爪棘ができてしまうと大変です。
何しろ、肉の中に楊枝のようなトゲが埋まっているも同然なのです。その痛み・苦しみは筆舌に尽くしがたいものです。普通に歩くなどとても叶わず、指先に何かが触れただけでも悲鳴を上げるようになってしまい、靴も靴下も履けず、誰かにおんぶしてもらわなければトイレにさえ行けなくなってしまうこともあります。人によっては、爪棘が皮膚を突き破って指先から露出してしまうことさえあるのです。
恐ろしいとはお思いになりませんか? 中には
「読んでいるだけで足の指が痛くなってきた」
という方もいらっしゃるかも知れません。
もう、ここまで言えば充分でしょう。
あなたが陥入爪で苦しんでいらっしゃるなら、「爪の角を切り取る」ことでごまかすのはおやめください。
「爪を切ることなく、爪を伸ばして行ける治療」をぜひお受けになってください。
もちろん、私の爪専門外来でもお受け戴けます。遠慮なくご相談ください。
(続く)
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爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。
医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/
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また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。
医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
メールアドレス: miyataatsushi@livedoor.com
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陥入爪において、「治った」とか「治癒した」と言える状態というのは、
爪が指先まで幅一杯に伸びている状態
を言うのでなければならないからです。
そうでなく、爪の角を切り込んでしまっている状態というのは、例え痛みや出血が治まっていたとしても、それは一時的であり、言わば
まやかしの治癒
なのです。なぜなら、いずれ爪が伸びてくればまた痛みや出血が再発することが目に見えているからです。
しかも、この「爪の角を切り取る処置」は単に治癒を遠ざけるにとどまらず、さらなる悪化にもつながる恐れが非常に大きいのです。ただの「足踏み」や「同じことの繰り返し」では済まなくなるのです。
考えてもみてください。
陥入爪で爪の角を切り取ったら、それまで爪が食い込んでいた肉はどうなるでしょうか?
今まで爪の角によって傷つけられながらも押し広げられていた肉は、いざ爪がなくなったときに、そのままの位置でとどまっていてくれるものでしょうか?
いいえ、とてもそうは思えません。爪の角を切り取ってしまえば、それまで押しのけられていた肉が、これ幸いとばかりにせり出してくるに決まっています。しかも、傷ついていた肉ともなれば、その傷がふさがると同時に肉が盛り上がり、さらに爪の行く手にせり出してくるであろうことが容易に予想されます。
そうなるとどういう結果になるかと言えば、爪の角を切り取ると、それまで爪によって確保されていた「爪が伸びるために必要なスペース」が狭まることとなるのです。つまり、今度は前よりも
もっと根元に近いところで爪が肉に食い込む
ことになってしまうわけです。
これを
「悪化」
と呼ばずして、何と呼ぶべきでしょうか。
つまりは、爪の角を切り取ると、また一段と治癒から遠ざかってしまうことになるのです。しかも、同様の処置を繰り返し受ければ、同じ理屈で爪が根元近くで肉に食い込むようになっていき、その分だけ難治化してしまうわけなのです。
しかも、話はまだこれで終わりではありません。「爪の角を切り取る処置」には、ややもすると大変恐ろしいことになる危険が潜んでいるのです。
これまでの話は、爪の角を「うまく」切り取れていることを前提に進めてきました。つまり、「滑らかな流線形」とまでは行かなくても、あまり角張らずに(つまり角の角度が鈍角になるように)切り取るということです。
「そんなの当然じゃないか」
「簡単だろ、そんなこと」
と思われる方が多いことでしょう。ですが、現実にはそんなに簡単なことではないのです。
爪の角を「うまく」切り取れなかった場合にどんな恐ろしいことが起こるか、皆さんにはぜひとも知っておいて戴きたいのです。安易に「爪の角を切り取ろう」となさらないために。
陥入爪に陥った爪の角というものは、肉に食い込んでいるわけですからそのままの状態では目に見えません。陥入の程度が軽ければ、肉を押し広げることで爪の角を露出することができる場合もありますが、大抵の場合は肉の中に意外に深く埋もれていて、麻酔でもしなければなかなか爪の角を直に見ることができないのです。
そういった状況で爪の角を切り落とすことは、実際にはとても難しいのです。「滑らかな流線形に切る」ことなどはまず不可能であり、「直線状に斜めに切り落とす」ことすらなかなかできません。「できた」と思っても、ほとんどは失敗であり、爪の断端には直角に近い角ができてしまっています。これでは、その角がまた陥入爪を引きおこすことは避けられません。
ところが、
下手をすると、もっと悲惨な結果になる
こともあるのです!
爪が「縦・横・縦」の3層構造になっていることは、すでに説明しました。そこから考えると、
爪は縦に裂けやすい
と言えます。このことはとても重要ですので覚えていてください。
陥入爪で肉に埋もれている部分の爪は、水分を大量に吸ってふやけてもろくなっています。そのため、通常の爪よりも裂けやすい状態にあります。
そこで、今、爪の角を切り落とそうとしてニッパーで切り進めたとしましょう。ちゃんと、爪の縁まで刃先を充分に進めて切れればよいのですが、ただでさえ痛くて敏感なところにニッパーの刃先を突っ込むのですから、患者の苦痛は並ではありません。しかも、爪は意外に深く食い込んでいることが多いため、相当深く切り進めても完全に切り落とせないことがあるのです。
すると、どういうことになるでしょうか?
もう切り取るべき爪の一部はブラブラしてすぐにでも取れそうなのに、まだ完全に切り落とせていない状況におかれた場合、あなたはどうしますか?
「もう充分に切れただろう」
と思いませんか? 痛みに耐えかねて泣き叫ぶ患者を前に、さらにニッパーを肉の奥深くへ突っ込むのは医師としても辛いものがあります。自分で爪の角を切り取ろうとしている場合でしたら、なおさらそう思いたくなるのも理解できます。そうなると、きっとこう思うに違いありません。
「ええい、もう力任せにちぎってしまえ!」
そして、充分に切れてもいないのに、無理矢理ちぎり取ってしまうことが往々にしてあるのです。それが、恐ろしい「悪魔の囁き」であることにも気付かずに・・・。
完全に切れていない爪を無理矢理ちぎると、どういうちぎれ方をするか、あなたはもうおわかりでしょう。
そうです。
爪は縦に裂けやすい
のですから、爪の角には爪が裂けてできた「割り箸の割れ残り」のようなトゲ状の部分が残ってしまうのです。これを
「爪棘(ソウキョク)」
と呼びます。
この爪棘ができてしまうと大変です。
何しろ、肉の中に楊枝のようなトゲが埋まっているも同然なのです。その痛み・苦しみは筆舌に尽くしがたいものです。普通に歩くなどとても叶わず、指先に何かが触れただけでも悲鳴を上げるようになってしまい、靴も靴下も履けず、誰かにおんぶしてもらわなければトイレにさえ行けなくなってしまうこともあります。人によっては、爪棘が皮膚を突き破って指先から露出してしまうことさえあるのです。
恐ろしいとはお思いになりませんか? 中には
「読んでいるだけで足の指が痛くなってきた」
という方もいらっしゃるかも知れません。
もう、ここまで言えば充分でしょう。
あなたが陥入爪で苦しんでいらっしゃるなら、「爪の角を切り取る」ことでごまかすのはおやめください。
「爪を切ることなく、爪を伸ばして行ける治療」をぜひお受けになってください。
もちろん、私の爪専門外来でもお受け戴けます。遠慮なくご相談ください。
(続く)
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爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。
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また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。
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