陥入爪に対して「爪の角を切り取る処置」がいかに不適切であるかについて説明して参りました。

 ここまでお読みになった方には、もう充分にご納得戴けたことと存じます。


 ですが日本では、いや、世界でも、この「爪の角を切り取る処置」という不適切な「治療」が未だに問題視されることもなく、一般的に行われているのです。これは一体どういうことでしょうか? なぜこのような状況が続いているのでしょうか?

 私はこれまで、過激とも取れる書き方でこの「治療」がいかに不適切であるかについて散々述べて参りました。

 これは、現在そういった「治療」を行い、または受けている方々からのご意見・ご反論をぜひともお伺いしたいとの考えもあって、敢えてしたことでもありました。「何か、私がまだ知らない理由なり利点なりがあるのではないか」という思いもありますし、そうであれば、私こそ考えを改めなければならないからです。

 ですが、残念なことに、いまだに何のコメントも反応もありません。

 これは「全ての読者が私に賛同してくださっている」と解釈していいものでしょうか? いいえ、そんなことはあり得ないでしょう。医学には種々雑多な意見なり主義なりがあるのが常だからです。

 そうなると、恐らくはこれは

   余りにも関心が低いがために反応がない

と考えるのが正しいのでしょう。何とも嘆かわしいことと言わざるを得ません。


 現在、陥入爪に対して「爪の角を切り取る処置」で対処していらっしゃる先生方は、どのような意識をお持ちなのでしょうか? どういった根拠で、そのような「治療」を続けていらっしゃるのでしょうか?

 医師が診療に関する知識を学ぶのはやはり医学の教科書・専門書からと考えるのが自然でしょう。


 ここに、私の出身校の慶應義塾大学の整形外科教授でいらした(2012年からは文化学園大学特任教授)井口傑(いのくち・すぐる)先生が著された『足のクリニック』(南江堂刊、2004年)という本があります。この本は、足の病気のことを専門に扱っている本で、巻き爪・陥入爪についても、かなりの紙面を割いて説明しています。

 少々長くなりますが、この本から陥入爪についての部分を引用させて戴きます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

陥入爪


 若い男性で、スポーツ選手などに多く、母趾の先が赤く腫れて痛み、浸出液や膿の排出をみる。診断は一目瞭然だが、爪角の部分の皮膚を押すと、激痛があるのが特徴である。母趾の爪角が爪溝から出るときに皮膚に食い込んで、炎症や細菌感染を起こし痛む。腫れと痛みのため、通常の爪切りでは爪角が十分に切除できず、切り残しが槍の穂先状となって、皮膚に食い込む。

 この悪循環を断つために、まずニッパー型の爪切りか、直の眼科剪刀で、爪角を斜めに切り落とす。思い切って刃先を突っ込まないと切り残すので、痛みが強い場合には、キシロカイン®液やゼリーで表面麻酔してから切る。その後は毎日2~3回、微温湯で5分間足浴を行ってから、水中で軟らかいブラシ(使い古しの歯ブラシ)を使い、老廃物を爪溝を中枢から末梢に向かって掃き出す。これにはマッサージ効果もあり、温浴と相まって血行を改善し、腫脹を軽減する。石けんを使ったときは、ぬるま湯のシャワーで十分洗浄してから、タオルで押さえるように拭く。指で爪溝を広げるようにしながら、ドライヤーの冷風で乾燥させる。イソジン®かヒビテン®を1滴爪溝に垂らし浸潤させた後、再びドライヤーの冷風で乾燥させる。浸出液や多少の排膿、出血があっても、応急絆創膏(バンドエイド®)を巻くと爪溝が閉じるので使用しない。洗いざらしの緩めの靴下を1日何回も履き替えさせ、ガーゼを当てるときも、きつく巻かず、包帯も使用しない。爪が伸びて、爪溝から出て、少しでも皮膚から離れるようになるまで、爪は切らない。爪溝から爪が出たら、爪を水平に切る。爪溝の腫れが治まるまでは、1日2、3回の足浴を続け、つま先のきつい靴を避け、清潔を保つ。

 初回であれば、9割がこれで治癒する。何度も繰り返して、爪溝が線維化した肉芽で埋まっていたり、すでに手術が行われていた場合には、手術をせざる得ない
(原文のまま)ことが多い。フェノールや塩化銀で爪溝の外側を焼却して、外側の皮膚を瘢痕性に収縮させ、爪溝を広げる方法がある。爪溝の外側の皮膚を「V」字状に切り取って縫合せず、生の創面を露出させたまま瘢痕性に治癒、収縮させ、爪溝を広げ浅くする手術もある。爪の縁を縦に帯状に切除し、爪溝を「V」字状に肉芽や瘢痕を切り取って縫合することで、爪溝そのものを埋めてしまう手術もある(鬼塚法)。部分抜爪する際、爪の母床を十分に切除しないと、分裂した爪が副爪のようになり、引っ掛かって当たる。爪全体を抜いてしまう全抜爪は、再生爪が前より良い爪になることはないので禁忌である。両端の部分抜爪も、爪がまくれ上がって引っ掛かりやすくなる。


(『足のクリニック -教科書に書けなかった診療のコツ-』105-106頁、 井口傑(いのくち・すぐる)著、南江堂刊、2004年)

(下線、赤文字は宮田篤志による改変)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いかがでしょうか?

 医学書のため、一部言い回しが専門的でわかりづらいかと存じますが、だいたいの意味はおわかりになったでしょう。

 この記載を見ると、確かに赤字の下線部で『爪角を斜めに切り落とす』と書いてありますね。それも、足を専門とする整形外科の教授(出版当時)の書かれた医学専門書の記載です。権威から言えば、若輩のしかも専門外である私など足元にも及ばぬ存在であることは間違いありません。

 その医学会の権威と矛盾するような主張を、私は述べてきているわけです。


 皆さんはどうお考えになりますか?

 陥入爪で「爪の角を切り取る処置」は果たして適切なのか、不適切なのか?

 ことによると、

   「医学書にさえ『切り落とす』と書いてあるのだから、一般に行われている『爪の角を切り取る処置』は間違っていないのではないか」

と思われてはいませんか?

 もしそうであるとしたら、ご面倒でも上の引用文をもう一度読み返して戴きたいと思います。それも、

   もし自分が患者だったら

という観点で読んで戴きたいのです。

 ...

 どうでしょうか?

 「陥入爪患者の立場に立って」井口先生の説明をお読みになって、あなたはどのような感想をお持ちになったでしょうか?

 私は、井口先生の書かれた内容と私の主張とは一見矛盾するようであっても、

   重要なところでは決して矛盾していない

と判断しているのです。なぜか、話を先に進めましょう。


 私が考えるに、井口先生の説明には誤解を招きやすい点があると思います。確かに、陥入爪の治療法として『切り落とす』と書かれてはいますが、それは当座の処置として行うだけであまり重要ではなく、本当に重要なのは

  切り落とした後の管理、つまりアフターケアなのです!

 その根拠として、同引用文の中に

  『爪が伸びて、爪溝から出て、

少しでも皮膚から離れるようになるまで、

爪は切らない。』


ときちんと書かれています。つまり、「爪が指先より長くなるまで伸ばす」ことが陥入爪を治す方法であるという点では、私の主張と一致しているのです。

 ただ、引用文を読むと、その点があまり目立って意識されないため、あたかも「爪を切り落とすことが必要である」かのような印象を与えるところが「誤解を招きやすい」と思うのです。

 このことからわかる通り、井口先生も決して「爪の角を切り取る処置」を無条件に奨めていらっしゃるわけではありません。「爪を切り落とすなら、それなりのアフターケアをきちんと行うことが、陥入爪を治すための条件となる」とおっしゃっているのです。

 一般の医療機関で行われている「爪の角を切り取る処置」には、その重要な「アフターケア」が欠けているから、不適切と言わざるを得なくなるわけなのです。

 結局、井口先生の説明も、私の考えと矛盾するものではなかったと言えます。


 では、陥入爪は、この井口先生の説明通りに治療すべきものなのでしょうか?

 いいえ、私はそうは思いません。なぜなら、確かにこの通りに実行すれば陥入爪は治るかも知れませんが、

   書かれている通りに実行するのは不可能に近い

からです。

 考えてもみてください。

 爪の角を切り落とした後、

   『毎日2~3回、微温湯で5分間足浴を行ってから、水中で軟らかいブラシ(使い古しの歯ブラシ)を使い、老廃物を爪溝を中枢から末梢に向かって掃き出』

して、

   『指で爪溝を広げるようにしながら、ドライヤーの冷風で乾燥させ』

て、さらに

   『イソジン®かヒビテン®を1滴爪溝に垂らし浸潤させた後、再びドライヤーの冷風で乾燥させ』

て、その上

   『洗いざらしの緩めの靴下を1日何回も履き替えさせ』

るなどということが現実に実行可能だとお思いになりますでしょうか?

 足の爪は伸びるのが遅いので、指先まで爪が伸びるまで最低3か月、長ければ半年から1年もかかってしまうでしょう。そんなに長い期間、上に挙げたような煩雑で時間と手間のかかる管理を毎日続けて行く自信が、あなたにはありますか?

 少なくとも、私にはとてもできそうにありません。

 入院患者か、よほど暇を持て余している人でもない限り、このような管理をしろと言われても、数日でイヤになってほったらかしになってしまうのは目に見えています。

 すると、結局どうなるかと言えば、爪の角を切り落とした後、爪の行く手はせり出してきた肉に遮られてしまい、さらなる陥入爪の悪化につながってしまうわけです。


 結論としては、やはり

   陥入爪に対して「爪の角を切り取る」のは不適切である

と言う他にないのです。

 陥入爪の最善の治療は

   「爪をできるだけ切らずに、

肉に食い込まないようにしながら、

指先まで伸ばすこと」

であるべきなのです。


 私の「爪専門外来」では、そのようにして治療を行っております。ご希望の方はぜひご相談ください。


(続く)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi@livedoor.com



人気ブログランキングへ