前回まで、「消毒」という処置が陥入爪の「治療」として不適切であることを説明してきましたが、皆さんは納得されましたでしょうか?

 少なくとも、「消毒」が陥入爪の原因を改善するものでないこと、そして、根本的解決のためには無力であることにはご同意戴けたものと存じます。

 ですが、実はこれでもまだ言い足りない面があるのです。と言いますのは、「消毒」という行為は陥入爪にとって無意味であるだけではなく、本当は

   全ての傷にとって無意味である

いや、それどころか

   無意味を通り越して有害である

とさえ言えるものだからです。


 私がこんなことを言いますと、きっと

   「そんな馬鹿なことがあるか!」

   「じゃあ、今まで傷を消毒してきたのは一体何だったんだぁ!」

というようなご意見があちこちから噴出することでしょう。いや、もしかするとこの程度にとどまらず

   「専門外のくせに何をほざくか!」

といったお叱りさえ受けるかも知れません。


 ですが、これは誰もが認めざるを得ない「事実」となりつつあることであり、いかにこれまでの「常識」に反することであっても、断じて枉(ま)げるわけには行かないのです。


 前回までの記事では陥入爪が主題であったため、「消毒」そのものの意味合いについてはあまり立ち入って述べることができませんでした。そのため、大多数の方が抱いていらっしゃるであろう

   「消毒をして何がいけないの?」

とか

   「消毒もしないよりはした方がいいんじゃないの?」

とかいった疑問に対して充分に答えられなかった嫌いがありました。


 そこで、話題が爪からは離れますが、ここで「消毒」について改めて説明し、その問題点を明らかにしておきたいと思うのです。これをお読みになれば、もはやあなたもむやみに傷を消毒しようとはしなくなるに相違ありません。


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 まず初めに、「消毒」とはそもそもどういう意味でしょうか?

 私が思うに、この「消毒」という言葉は大いに誤解を招くものであり、あまりよい用語とは言えません。「消毒」と言うと、いかにも「悪いものを消し去ってくれる」というようないいことずくめのことみたいに感じられるのに、実際はまるで違うからです。


 余談になりますが、私が大学で微生物学を学んでいた時には、「消毒」とは試験の当落をも左右するとても重要な概念でした。一般には、「消毒」と言えば「菌を殺すこと」でいいと思いますが、専門用語としてはこの説明では不充分なのです。なぜなら、これですと「滅菌(めっきん)」との区別が付かなくなるからです。

 専門的には、「滅菌」とは

   全ての微生物を殺滅すること

を言い、「消毒」とは

   人畜に特に有害な微生物を殺滅すること

を表すものとされ、厳格に区別されています。また、「殺菌」という言葉もありますが、これは「消毒」と同じ意味を指すものとされます。

 つまり、「滅菌」と言った場合にはいかなる細菌も一つ残らず殺さなければならないのに対して、「消毒」(もしくは「殺菌」)と言った場合は残っている菌がいてもいいのです。

 実際には「滅菌」をするのはとても大変で、細菌には色々な種類があり、環境への適応能力も様々ですから、これらを「全て殺滅する」となると、とてつもない猛毒(エチレンオキサイドガスなど)を使うか、さもなければ高温(120℃以上)や放射線(γ線など)を用いなければなりません。

 従って、人体に対して行う行為としては「滅菌」などということは不可能であり(すればヒト自体が「殺滅」される)、できても「消毒」がせいぜいであることがおわかりになるでしょう。

 つまり、「消毒」という行為は「菌を殺すこと」ではありますが、こと人体に関する限り、

   「菌を(人体を殺さない程度に)殺すこと」

とならざるを得ないのです。


 ところが、改めて考えてみますと、「菌を殺す」ということはすなわち

   「菌にとって害毒である」

ということでもあります。そうでなければ菌が死ぬわけがないからです。そうなると、「菌にとって害毒である」ものは他の生物にとっても害毒であると考えるのが自然です。となれば、人体にとっても害毒になるであろうと否が応でも推察せざるを得ません。

 そうなると、上で述べたような「菌を(人体を殺さない程度に)殺す」などということが、そもそも可能なのかどうか考え直さなければならなくなってきます。


 最初に述べた、「(全ての)傷に対して、消毒は無意味を通り越して有害である」という主張は、まさにここから導き出されて行くのです。


(続く)

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