「消毒は、全ての傷にとって有害である」というのが私の主張です。

 この主張は、これまで信じられてきた

   傷は消毒するのが当たり前

という「常識」に真っ向から逆らうものであり、大いに反発を招くものと予想されます。

 しかし、この主張は決して私が言い出したことではなく、練馬光が丘病院 傷の治療センター にご勤務の夏井睦(なつい・まこと)先生がすでに盛んに講演・出版を通じて訴えていらっしゃることなのです。私も、爪の治療を学ぶ過程で夏井先生のご著書に出会い、それから自分なりに検討した結果、現在のような信念を持つに至っているのです。

 夏井先生は、一貫して「消毒とガーゼは傷にとって害悪である」との主張を繰り広げていらっしゃいます。その内容は同先生のサイト『新しい創傷治療』(※閲覧注意:実際の傷の写真がありますので、血を見るのが苦手な方はご注意ください)http://www.wound-treatment.jp/) に収められていますが、極めて膨大で多岐にわたり、とても一日では読み切れないほどです。

 私の主張もほとんどが夏井先生のご著書から得た情報の焼き直しに過ぎませんので、上のサイトを熟読して戴ければもうそれで充分なのですが、時間のない方、及び血が苦手な方のために私なりのまとめをご覧戴くのも意味があるものと存じます。

 そこで、この項では傷に対する「消毒」の意味に絞って解説して参ることと致します。


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 「滅菌」や「消毒」に用いられる手段は大きく4つに分類することができます。それは、

   A.高熱

   B.放射線

   C.気体薬剤

   D.液体薬剤

の4つです。

 ですが、これら4つの手段のうち人体に「消毒」として用いられ得るものはと言えば、D.の液体製剤による方法しか考えられません。なぜなら、A.ではやけどをしてしまいますし、B.では皮膚・眼の障害が起こりますし、C.では肺が冒されてしまうからです。

 そういうわけで、これからは「消毒」と言えば専ら液体薬剤、つまり(いわゆる)「消毒薬」によるものに限って話を進めることと致します。


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 「消毒薬」(人体の消毒に用いられる液体薬剤)が傷に使われたときに、どのような現象が起こって、どのような結果が生じるかを考えるためには、「消毒薬」そのものについての知識(そして微生物についての知識)が不可欠です。

 そこで、まず最初に「消毒薬」はどのようなもので、どういう働きで「消毒」をしているのかについて説明しておきたいと思います。


 現在、日本で使われている「消毒薬」は、その作用の仕方によって大きく3つに分類することができます。

   1.主に水を奪うもの(アルコール)

   2.主に(細胞を包んでいる)膜を溶かすもの(界面活性剤)

   3.主に蛋白質を冒すもの(その他のもの)


 では、これらのそれぞれについて説明を加えましょう。


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1.主に水を奪うもの(アルコール)


 これは誰もが知っている消毒薬の定番です。医療機関でも、注射や採血などの際に盛んに使われるものです。

 水とよく混じるアルコール(こういうものを「低級アルコール」と呼ぶ)であれば、特にどれでも構わないのですが、万一口に入ったりした場合を想定して、人体に毒性の低いエチルアルコール(エタノール)とイソプロピルアルコール(イソプロパノール)が主に使われます。メチルアルコール(メタノール)は毒性が高く、誤って飲むと体内で蟻酸(ぎさん)という毒に変化し、眼に障害を起こします(そのため、

   「目散る(メチル)アルコール」

とも呼ばれる)。


 これだけ広く使われているアルコールですが、なぜこれが消毒薬として作用するのかとなると、詳しくご存じの方は少ないと思われます。まさか

   バイ菌が酔いつぶれるから

などということはないでしょうし、どういう仕組みでアルコールは菌を殺滅するのでしょうか。


 アルコールは触れた物質から水を奪う性質があり、そのため細菌などの細胞の水分が奪われ、干からびて死に至ることになるのです。しかも、この性質は純アルコールよりも80%くらいの水溶液の方が強いのです。

 そのため、一般の消毒用アルコールには少し水が加えられているのが普通です。これは「水増し」しているのでは決してなく、アルコールの殺菌作用をより強めるためなのです。


 このことから考えると、このアルコールの作用は決して細菌に対してのみ殺滅作用を及ぼすわけではなく、原則として

   全ての生物の細胞に対して害毒となる

ものであることがわかります。なぜなら、細胞には必ず水分が含まれているからです。

 ということは、ヒトの細胞に対しても同様の悪影響を及ぼすわけで、実際、アルコールを使いすぎると手がガサガサに乾燥してしまいます。それでも皮膚は比較的乾燥に強いからいいのですが、傷ともなると普段は表面に出て来ない血球細胞や皮下組織がむき出しになっているため、もしアルコールがかかったらたちまち水分を奪われて死んでしまうでしょう。だから、傷にアルコールが入ると「染みて痛い」のです。

 この「細菌に対してだけでなく、全ての生物の細胞に対して害毒となる」という点は極めて重要ですので、ぜひともお忘れにならないようご留意ください。


(続く)

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