消毒薬について説明を続けましょう。


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2.主に(細胞を包んでいる)膜を溶かすもの(界面活性剤)


 これは、一般には「消毒薬」とはあまり見なされていませんが、実際には消毒目的で頻繁に使われているものです。

 具体的な消毒薬の例としては、

   ベンゼトニウム塩化物(ハイアミン® など)

   ベンザルコニウム塩化物(オスバン®ヂアミトール®ウェルパス® など)

   アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩(テゴー51® など)

がこれに当たります。


 「界面活性剤」と言うと耳慣れず難しく感じられますが、意味としては「水と油を混ざりやすくする物質」ということであり、より正確に言うと

   親水性物質と疎水性物質を均一化する物質

ということになります。ここで言う「親水性物質」とは「水になじむもの」という意味で、代表的なものはもちろん

   水そのもの

です。そして、「疎水性物質」とは「水を弾くもの」という意味で、代表的なものは

   

ということになります。

 日常生活で見る界面活性剤の例としては、

   石鹸・洗剤

が代表的なものです。これらは、疎水性物質である垢や油汚れを水に溶け込ませることによって「落とす」役割を果たすわけです。


 ただ、一般的に使われる石鹸・洗剤の大部分は陰イオン性(マイナスの電気を持つ)界面活性剤なのですが、消毒薬として用いられるのは陽イオン性(プラスの電気を持つ)界面活性剤かまたは両性(プラスとマイナスの両方の電気を持つ)界面活性剤であるという違いがあります。また、あまり使われませんが非イオン性のものもあります。

 一般に、陰イオン性の方が汚れを落とす効果が強いためにそうなっているのですが、一部では陽イオン性のものも使われており、これは陰イオン性と逆の性質を持っているため

   「逆性石鹸」

とも呼ばれます。つまり、消毒薬としてよく用いられるのは「逆性石鹸」であるとも言えるのです。(これらの陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤とは、水中で結合して効果を打ち消してしまうため、混ぜて使ってはいけません。)


 陽イオン性界面活性剤が「消毒薬」として使われる理由としては、細菌を構成する蛋白質がマイナスの電気を持っていることが挙げられます。通常、このマイナスの電気はヒトの白血球から細菌自身を守るために役立っているのですが、陽イオン性界面活性剤はマイナスの電気に引かれる性質があるため、細菌にくっつきやすく、細菌の蛋白質を冒す(正確に言えば「変性させる」)ことによって細菌を殺すと考えられているのです。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、蛋白質がマイナスの電気を持っているのは

   細菌だけではない

ということです。他の細胞、もちろんヒトの細胞も含めた全ての細胞にも蛋白質があり、これらもやはりマイナスの電気を持っているのです。

 ですから、陽イオン性界面活性剤のこの殺菌作用は、決して細菌に対してのみ発揮されるわけではなく、当然、ヒトの細胞にも悪影響をもたらすことになるのです。

 ここでは、これ以上蛋白質に対する作用については触れませんが、この作用においても、前項のアルコールと同様に

   全ての生物の細胞にとって害毒となる

と言えることを覚えておいて戴きたいと思います。


 さてここで改めて、一般に界面活性剤が生物の細胞に及ぼす作用を考えてみましょう。

 まず、界面活性剤とはそもそも何だったでしょうか?

 そうです。

   親水性物質と疎水性物質を均一化する物質


のことでしたね。では、界面活性剤はどのようにしてこの役割を果たしているのでしょうか?


 界面活性剤は、下の図1に示すように、親水性の部分と疎水性の部分とを一つの分子に併せ持つ構造をしています。

界面活性剤の分子




















このように、親水性の部分のことを「親水基(しんすいき)」、疎水性の部分のことを「疎水基(そすいき)」と呼びます。

 このような構造を持つ界面活性剤の分子を水に溶かすと、次の図2のようになります。

界面活性剤の水溶液


























 つまり、疎水基は水から離れようとするため、最初は水面に並んで疎水基を水上に出す形で溶けますが、ある濃度以上になって水面に並び切れなくなると、水中で疎水基を中心に向けた球状の「ミセル」と呼ばれる構造を作り、できるだけ疎水基を水に触れさせないような状態となるのです。界面活性剤を水に溶かすと、このようにミセル化した界面活性剤の分子の塊が沢山できることとなります。

 油汚れに界面活性剤を作用させると、この「ミセル」の中心部に油性成分が包み込まれた形で水中に分散するので、「よく落ちる」ということになるのです。


 一方、ヒトや細菌を含む全ての生物は細胞でできており、その細胞には必ずその表面を包む膜があります。これを

   細胞膜

と呼びます。この細胞膜は細胞の中と外とを隔てている重要な存在であり、もしこれがなかったり破れたりしたら、細胞の中身がみんな外へ流れ出てしまい、細胞は生きていられなくなります。

 これだけ重要な細胞膜なのですから、さぞかし強靱な構造をしているのだろうと考えたいところですが、現実はそうではありません。

 実は、細胞膜はほとんどの場合、下の図3に示すような「脂質二重層」というつくりになっているのです。

細胞膜の構造
























 つまり、界面活性剤の分子とよく似た「燐脂質(りんししつ)」という脂肪の種類の分子がただ二重に並んでいるだけなのです。この構造は、「疎水基をできるだけ水に触れさせないようにする」ことによってのみ安定化され、維持されている極めて「脆い」構造であり、例えて言うならば

   薄い油の膜

でしかないものなのです。


 では、このとても脆い油の膜でしかない細胞膜に、界面活性剤がふりかかってきたらどのようなことが起こるでしょうか?

 界面活性剤とは「水と油とを均一化する物質」であるわけですから、これが細胞膜に作用したらどうなるかは容易に想像がつくでしょう。

 そうです!

界面活性剤が細胞膜へ及ぼす作用




































 上の図4のように、細胞膜を作っていた燐脂質は界面活性剤に「溶かされて」しまい、膜構造は簡単に破壊されてしまうのです。恐ろしいことだとは思われませんか?

 つまり、界面活性剤は細胞膜を溶かして細胞を瞬時に死に追いやる危険な物質に他ならないのです。


 実際、生物学の実験で細胞を溶かして中身の分析をしようとする時にSDS(Sodium Dodecyl Sulfate :ラウリル硫酸ナトリウム)という薬品を使いますが、これは強力な界面活性剤なのです。私も使ったことがありますが、実験で培養している細胞が入った容器にSDSを入れると、瞬く間に細胞は影も形もなくなり、ドロドロの液体になってしまうのです。


 こんなことを言うと、ことによると

   「じゃあ、なぜ石鹸で手を洗っても手が溶けないのか?」

と思われるかも知れませんが、これは、皮膚の表面が界面活性剤を通さない角質層で覆われているからなのです。


 ですから、本来は体の表面には出て来ないはずの皮下組織などに界面活性剤がかかったら、おそらく細胞が溶けるのは避けられないでしょう。

 つまり、この界面活性剤も、アルコールと同じく、

   細菌に対してだけでなく、全ての

生物の細胞に対して害毒となる


ものなのです。


(続く)

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