では、消毒薬の最後として、これまでの分類に当てはまらない「その他のもの」について説明致しましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3.主に蛋白質を冒すもの(その他のもの)


 ここでとりあげる消毒薬は、アルコールと界面活性剤以外の全てです。

 代表的なものを挙げれば、次の通りです。

   過酸化水素水(オキシフル® など)

   マーキュロクロム水溶液(マーキュロクロム®、いわゆる「赤チン」)

   クロルヘキシジングルコン酸塩(ヒビテン® など、いわゆる「白チン」)

   ヨードチンキ(いわゆる「ヨーチン」)

   ポビドンヨード(イソジン® など)



 これらの消毒薬はその作用こそ違いますが、どれも「蛋白質を冒す」という点で共通しています。

 ただ、「蛋白質を冒す」と言っても、実際のところどういうことなのかを正しく理解して戴くにはかなり長い説明を要すると思われます。

 そこで、この「蛋白質を冒す」作用の説明の前に、上に挙げた消毒薬について少々説明を加えておきましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 過酸化水素水は過酸化水素(H2O2)の水溶液であり、過酸化水素が分解してできる酸素が主に蛋白質などに結合することによって効果を現します。過酸化水素は酸素を放出するとただの水(H2O)になりますので、後には何も有害物質が残りません。作用は弱いのですが、消毒薬の中で「後に有害物質を残さないもの」はこれ以外にありません。

 マーキュロクロム水溶液は「赤チン」と呼ばれ、昔はよく見かけたものです。ですが、水銀化合物であるため、製造過程で水銀を含む廃棄物が出ることから、現在、国内での製造は中止されており、輸入材料から作られたもののみが販売されています。マーキュロクロムが放出する水銀イオンが主に蛋白質に作用して効果を現します。通常の使用では水に流されやすいため毒性は低いのですが、沃(ヨウ)素イオンと一緒になると沃化第一水銀(後に分解して、金属水銀と沃化第二水銀に変化する)や沃化第二水銀を生じ、不溶性となって傷に残留して腐食の原因となるため、沃素を含むヨードチンキやポビドンヨードと併用してはいけません。

 クロルヘキシジングルコン酸塩は通常無色透明なので「赤チン」に対して「白チン」とも呼ばれる消毒薬です。これも主に蛋白質に作用します。

 ヨードチンキは沃化カリウム水溶液に沃素を溶かし(沃素は水に溶けないため)、アルコールを加えたものです。ポビドンヨードは沃素を含む化合物で、どちらも沃素イオンを放出して、その沃素イオンが主に蛋白質に結合することによって効果を示します。ポビドンヨードの方が刺激が少ないので、よく使われます。上にも書きましたが、マーキュロクロム(「赤チン」)と併用してはいけません。(なお、ヨードチンキは「チンキ」と呼ばれてはいますが、「チンキ」とは「生薬の有効成分をアルコールで抽出したもの」を指す言葉なので、厳密には「チンキ」ではありません。また、「赤チン」や「白チン」の「チン」も「チンキ」を略したものですが、これらもただの水溶液ですので「チンキ」ではありません)


 つまり、これらの消毒薬は全て「主に蛋白質に作用すること」によって効果を現しているわけです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さて、それぞれの消毒薬についておおよそご理解戴いたところで、いよいよ、「蛋白質を冒す」とはどういうことなのかについて説明して行きたいと思います。


 まず初めに、

   そもそも「蛋白質」とは何か

について考えてみましょう。

 私が考えるに、この「蛋白質」というのはあまりいい名前ではありません。これは「卵の白身」から来た言葉ですが、これですと本来の蛋白質の働き・重要性がうまく伝わらないからです。

 皆さんは如何でしょうか? きっと「蛋白質」と聞いて思い浮かべるのは「卵の白身」とか「筋肉」や「皮膚」を造っている、コラーゲン、ケラチンなどのいわゆる

   構造蛋白

ではないでしょうか?

 もちろん、これらの構造蛋白も生物が生きていく上で欠かすことのできない重要なものであることは間違いないのですが、これは「蛋白質」の働きの「ほんの一面」に過ぎないのです。

 実は、「蛋白質」は

   「全ての生命の源(みなもと)」

とも言える最も重要な物質であり、生物を形作っている他の物質はほとんど全てが「蛋白質」の働きによって生み出されたものなのです。ですから、生命は「蛋白質」なしには一瞬たりとも存続しえないのです。


 ここで、学校で教わった生物学の知識を思い出してみてください。

 蛋白質とは、20種類以上あるアミノ酸という物質が一列に幾つもつながってできています。そのアミノ酸の種類・配列によって、多種多様な蛋白質が生じるわけです。

 難しいことは省きますが、生物は DNA(デオキシリボ核酸)というものを持っており、それにはその生物の体を造り出すのに必要な情報が含まれています。 DNA に記録された情報はまず mRNA(伝令RNA)という短い RNA(リボ核酸)に写し取られ、それを基にアミノ酸の種類・配列が決定され、蛋白質が合成されます。

 ここで大事なことは、脂肪だの糖だのが造られるより先に

   まず最初に蛋白質が造られる

ということです。

 そして、そのようにして造られた蛋白質のあるものは酵素として働き、脂肪だの糖だのといった他の成分を造り出すことになるのです。

 ですから、蛋白質がなければ、脂肪や糖といった他の成分も一切造られなくなるわけです。

 いかに蛋白質というものが重要なものであるか、よくおわかりになったでしょう。


 上で説明した通り、蛋白質とは

   数多くのアミノ酸が連結しているもの

です。そして、そのアミノ酸の数は数個から数十・数百に及ぶため、蛋白質の分子はとても大きいのが普通です(こういう大きい分子のことを「高分子(こうぶんし)」と呼ぶ)。

 このような高分子になると、その形は非常に複雑となります。単純に考えればアミノ酸が一列につながった紐状になりそうですが、実際にはそういう形で存在することは滅多にないのです。なぜなら、アミノ酸には「プラスやマイナスの電気を持ったもの」や「親水性のもの」や「疎水性のもの」など様々な性質の違いがあり、それが分子の形に大きな影響をもたらすからです。

 具体的には、電気的な力(プラス同士・マイナス同士は反発し、プラスとマイナスは引き合う)が作用し、疎水性のもの同士が集まる傾向も加わり、ある特別な形となるのです。これを蛋白質の

   立体構造

と呼びます。

 この立体構造は、蛋白質がその役割を果たす上で必要不可欠なものです。ですから、例えアミノ酸配列が変化しなくても、立体構造が変わってしまうと、もうその蛋白質は本来の働きをすることができなくなってしまうのです。


 これは、水(H2O)やエチルアルコール(CH3CH2OH)のような小さい分子(こういうのを「低分子(ていぶんし)」と呼ぶ)には見られない現象です。低分子ならば、分解や結合が起こらない限り、その性質が失われることはないと考えられますが、蛋白質のような高分子では、例え分解や結合などの化学反応が起こらなくても、立体構造が変化するだけで、その性質が失われてしまうのです。

 このように、化学反応が起こったわけでもないのに、立体構造が変化したためにその性質が失われることを蛋白質の

   変性(へんせい)

と呼びます。


 このように、蛋白質は変性、つまり立体構造の変化だけで役に立たなくなってしまい得る、極めて

   脆(もろ)い

性質を持っていることをよく理解して戴きたいと思います。


 さて、ここまで長々と説明してきたのは他でもありません。

 「蛋白質を冒す」ということの意味を正しく理解して戴きたいがためです。

 このように、蛋白質というものは、生体にとって最も大事な成分であると同時に、非常に不安定で損なわれやすい物質であるわけです。

 そのため、分解や結合などの化学反応が起こればもちろんのこと、例え起こらなくても、変性をきたすだけで、蛋白質はその機能を失ってしまうのです。

 「蛋白質を冒す」とは、蛋白質を分解するとか、何かを結合させるだけでなく、変性させることをも含めて言っている言葉であったわけなのです。


 既に述べましたように、蛋白質の立体構造はアミノ酸の電気や疎水性といったもので成り立っているため、ごく一部でも何か結合するだけで電気や疎水性のバランスが崩れ、大幅に立体構造が変化してしまう可能性があります。いやそれどころか、何も結合しなくても、何か電気を持ったものが近づいたり、疎水性の分子に囲まれたりするだけで容易に構造が変わってしまい得るのです。

 ここでとりあげた消毒薬は、酸素を結合させたり、電気を持ったイオン(水銀イオン、沃素イオンなど)を放出することによって、蛋白質に化学変化を起こしたり変性させたりして、その機能を失わせ、細菌を殺すというわけです。


 ですが、ここで改めて言うまでもなく、蛋白質を持っているのは何も細菌だけではありません。

 およそ地球上の全ての生物は蛋白質の存在の上に成り立っているのです。もちろん、ヒトだって例外ではありません。

 そうなると、結局のところ、ここで挙げた消毒薬も

   全ての生物にとって害毒となる

ことに変わりはないということになるのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いかがでしょうか?

 消毒薬を、その作用から3つに分類して説明して参りましたが、結論としては、

   全ての消毒薬は細菌に対してだけでなく、

全ての生物の細胞に対して害毒となる

ということとなるのです。


 では、このような性質を持つ消毒薬を使って、「細菌を(ヒトの細胞を殺さない程度に)殺す」などということが、果たして可能なのでしょうか? 可能なのであれば消毒という行為に意味を見出すことができますが、もし不可能であるとしたら、消毒はまさに

   有害無益な行為

と断ぜざるを得ません。

 次回から、この点をさらに突き詰めて行きましょう。


(続く)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi@livedoor.com



人気ブログランキングへ