消毒にまつわる神話の2番目は

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

というもので、言い換えれば

   「消毒はバイ菌(細菌)に対して殺滅作用を

もつが、ヒトの細胞に対しては無害である」


といった考え方です。

 こういう考え方で「消毒」というものを捉えていらっしゃる人は相当に多いと思われます。だからこそ、イソジン®などの消毒薬を傷口が見えなくなるほど塗りたくっても平気でいられるのです。

 ですが、これもまた

   何の根拠もない幻想

であり、真実は全く異なっているのです。


 この「神話」がいかに現実とかけ離れたとんでもない間違いであるかを実感するためには、少々回り道になりますが、「細菌」と「ヒトの細胞」について予備知識を得て戴くのが最良だと思います。そこで、まず最初に

   バイ菌(細菌)

とはどういうものなのかについて説明することに致しましょう。

 とは言っても、「細菌」を含む微生物について詳しく説明していると何冊もの本になってしまいますので、ここでは「消毒」の真実を理解するために必要な事柄に絞って述べることとします。


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 一般に「バイ菌」とは、「ヒトに対して害となる微生物全般」のことであり、必ずしも「細菌」だけとは限らず、「真菌」(一般に「カビ」と呼ばれる)やウイルス、時には寄生虫をも含める場合があります。ですが、こと傷口への感染という点で言えば、細菌以外の微生物はほとんど問題になりません。そのため、ここでは「細菌」についてのみ考えることにしましょう。


 「細菌」とは、一般に「菌類」と呼ばれる微生物の中の

   「原核生物(げんかくせいぶつ)」

と言うものに当たります。「原核生物」というのは、

   「真核生物(しんかくせいぶつ)」

に対して言う言葉です。「真核生物」がはっきりした「核(かく)」を持つのに対して、細菌はそうでないため、こう呼ばれるのです。ただ、誤解してはならないのは、細菌には「核」がないのではなく、細菌の「核」が「核膜(かくまく)」という膜に包まれていないだけであるということです。つまり、細菌以外のほとんどの生物では「核」が「核膜」に包まれているのに対して、細菌ではその「核膜」がなく、中身(主に DNA)がむき出しで細胞の中に漂っているというわけです。そして、細菌の細胞は小さいながらも盛んに蛋白質を作っており、その中身は大変に物質の密度が高い状態にあります。言い換えれば

   「とても濃い水溶液になっている」

ということです。このことは、後で重要な意味をもってきますから、お忘れにならないようにしてください。


 そして、その「細菌」の表面は膜で包まれているわけですが、ここで「細菌」が「ヒトの細胞」と異なる最大の特徴が出てくるのです。

 つまり、「ヒト(および他の動物)の細胞」が「細胞膜(さいぼうまく)」で包まれているだけなのに対して、ほとんどの「細菌」は「細胞膜」の外側にさらに

   「細胞壁(さいぼうへき)」

という強固な被膜を持っているということです。(ここで「ほとんどの」と書いたのは例外があるからで、細菌の中で唯一、マイコプラズマだけには「細胞壁」がありません。でも、マイコプラズマが傷口に感染するなどということはあり得ないので、ここでは無視して構いません。)


 順番に説明致しましょう。

 細胞には必ず「細胞膜」という被膜があります。それがなければ中身がみんな外へ出てしまうからです。ただ、その「細胞膜」は、以前消毒薬(界面活性剤)の説明の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/23833749.html)で触れましたように、「脂質二重層」でできた極めて脆い膜です。

 また、この「細胞膜」には「半透膜(はんとうまく)」の性質、つまり、水は通すがそれに溶けている塩分や蛋白質など(こういうのを「溶質(ようしつ)」と呼ぶ)は通さないという性質があります。そのため、細胞膜の内側と外側とで溶液の濃度が違っていると「浸透圧(しんとうあつ)」が生じ、「薄い方から濃い方へ水だけが移動する」現象が起こります。

 ですから、細菌のようにとても濃い中身を持つ細胞がもし「細胞膜」しか持っていなかったとしたら、外から水がどんどん入り込んできて、しまいには破裂してしまう(こういう現象を「溶菌(ようきん)」と呼ぶ)ことでしょう。そうならずに済んでいるのは、とりもなおさず、堅固な「細胞壁」に覆われているからなのです。

 この「細胞壁」は「プロテオグリカン」と呼ばれる物質でできており、細菌の大きさや形を保つ役割を持つだけでなく、外界からの刺激や環境の変化などから細菌を守る効果を果たしています。ですから、細菌は様々な環境においても生存することができているのです。

 言ってみれば、「細菌」は「細胞壁」という

   鎧(よろい)で身を守っているようなもの

であり、それに対して「ヒトの細胞」は

   裸でいるようなもの

なのです。

 まずは、この事実をしっかり押さえておきましょう。


(続く)


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