さて、これまで「細菌」と「ヒトの細胞」とについて長々と説明して参りましたのは他でもありません。

 消毒に対して未だに大部分の人(医療関係者も含む)が抱いていると思われる

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

もしくは

   「消毒はバイ菌(細菌)に対して殺滅作用を

もつが、ヒトの細胞に対しては無害である」


という神話を打破するためでした。

 ここまで記事をお読みになった方であれば、もう説明するまでもなくおわかり戴けることかとは思いますが、誤解や反論の余地を完全に潰しておくためにも、この神話に引導を渡す作業を完遂することと致しましょう。


 「消毒」とは、言い換えれば

   「消毒薬の害毒作用によって細菌を殺滅しようとする行為」

に他なりません。(ここで「殺滅する行為」としなかったのは、「確実に殺滅できるかどうかが明確でない」からです。)そして、その害毒作用が主に

   ◯ 水分を奪う作用(アルコール)

   ◯ 細胞膜を破壊する作用(界面活性剤)

   ◯ 蛋白質を冒す作用(その他)

の3つにまとめられることは、既に説明しました。

 では、これらの作用に対して、「細菌」と「ヒトの細胞」とではどちらが強い抵抗力を持っているか、個別に検証してみましょう。


 まず、水分を奪う作用に対して「ヒトの細胞」は極めて弱い存在です。絶えず周囲に水分(つまり湿潤環境)が存在しなければ生きていられないのですから、環境から水が奪われるのは致命的です。ましてや、細胞そのものからも水分が奪われるに至っては、まさに「死者に鞭打つ」ようなもので、辛うじて生き残っていた細胞にも完全にとどめをさされてしまうでしょう。その点、「細菌」は細胞壁で覆われていますので、周囲が乾燥しても細胞壁が内部の水分を閉じ込めているため、しばらくは死なずにいられることが多いのです。当然、抵抗力は「細菌」の方が格段に強いと言えます。

 次に、細胞膜を破壊する作用について考えても、細胞膜がむき出しになっている「ヒトの細胞」にとってはひとたまりもない破壊作用となります。「細菌」は細胞膜の外側に細胞壁がありますので、高濃度・長時間の消毒薬にさらされない限り、持ちこたえられる可能性があります。つまり、抵抗力はここでも「細菌」の方がはるかに強いことは間違いないのです。

 そして、最後の蛋白質を冒す作用についても、細胞表面に細胞膜と共に無数の蛋白質を露出させている「ヒトの細胞」は非常に弱いものと考えざるを得ません。この点においても、「細菌」は細胞膜の周囲を細胞壁が覆っているので、当然、蛋白質も細胞壁に覆われていて、消毒薬が直接作用しにくいようになっているのです。そうなると、やはり抵抗力は明らかに「細菌」の方が勝っているという結論になるのです。


 如何でしょうか?

 つまり、消毒薬の作用を幾つかに分類して考えてはみましたが、結論としては全ての作用に対して

   
「細菌」の方が「ヒトの細胞」よりも明らかに抵抗力が強い

ということとなるのです。

 こういう結論になるのなら、消毒薬の作用の分類など初めから不必要だったのではないかという気さえするところですが、本当の意味で充分に理解して納得して戴くには、やはり必要な行程だったものと私は信じています。


 さて、そうなると、消毒薬を傷口に塗った場合にどのような結果になるかは容易に推定できます。

 単純に考えて、消毒薬を作用させたときに、抵抗力の強い方と弱い方とではどちらが多く殺滅されるでしょうか? これはもう、質問するのも愚かしいくらいに明白なことです。

 図で考えてみましょう。

 ここまでの結論で、消毒薬に対する抵抗力は「ヒトの細胞」よりも「細菌」の方が強いわけですから、グラフにすれば下の図1のようになります。

「ヒトの細胞」と「細菌」との抵抗力の違い

























 では、ここで消毒薬をほんの少しかけてみましょう。作用が明らかに弱すぎる場合には、次の図2のようになり、「ヒトの細胞」も「細菌」も影響を受けずに生き長らえることになります。

消毒薬が弱い場合

























 でも、これでは何の意味もありません。そこで、今度は消毒薬をうんと濃くしてみましょう。すると、おそらく次の図3のように、「細菌」も「ヒトの細胞」もみんな死んでしまうことになるでしょう。

消毒薬が強い場合

























 「こんなことでは困る」とばかりに、消毒薬をもっと薄めに加減したらどうなるでしょうか?

 そうです!

その中間の場合

























 何と、標的である「細菌」は死なずに、肝心の「ヒトの細胞」だけが死んでしまうという、

   最低・最悪の結果

となるのです。

 消毒薬をどう加減してみたところで、上の3つの場合以外には絶対になり得ません。

 結局どういうことになるかと言えば、どうしても

   消毒薬は「細菌」も殺すが「ヒトの細胞」も殺す

ということにならざるを得ないわけです。しかも、下手をすれば「細菌」を殺さずに「ヒトの細胞」だけ殺すなどということにさえなりかねないのです。

 恐ろしいとは思われませんか?


 これを戦争に例えればさらにわかりやすいでしょう。

 ある戦場で、自軍の兵士が侵入してきた敵軍と戦っているとします。しかも、自軍はほとんど裸同然で戦っているのに対して、敵はみな鎧や防毒マスクで武装しているとします。

 そういう状況において、もし上空から毒ガスを散布したらどういう結果になるでしょうか?

 これはもう、やってみるまでもなく明らかでしょう。

 敵も多少は死ぬかもしれませんが、自軍はそれよりはるかに多く死んでしまい、結局生き残ったのは敵ばかりということになるのはほぼ間違いないのです。

 もし実戦において、自軍援護のつもりでこのような作戦を断行する将軍がいたら馬鹿です。その罪は文字通り万死に値し、陣中引き回しのうえ獄門にかけられても当然と言えるでしょう。


 それなのに、これとほとんど同様の愚行である「消毒」という行為が、何の疑問も持たれずに日々盛んに行われているのです。実に不合理なことと言わざるを得ません。

 「消毒薬」という手段を用いる限り、「ヒトの細胞」を殺さずに「細菌」だけを殺すなどということは

   絶対に不可能

なのです。


 私たちは、もう既に

   「消毒はバイ菌(細菌)だけを殺す」

などという神話を捨て、正しい判断をするべき時に来ているのです。


(続く)


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