では、最後に消毒にまつわる3つ目の神話

   「消毒は傷の治りを速める」

に話を進めましょう。

 この神話は実のところ何の根拠もなく、消毒薬の説明書を見てもそんなことは全く書かれていないにもかかわらず、何故か一般に広く信じられているものなのです。


 考えてもみてください。私たちが消毒薬を持ち出してわざわざ「消毒」などという行為をするのはいったい何のためでしょうか?

   「消毒が気持ちいいから?」

   「消毒が面白いから?」

いえいえ、そんなことはないでしょう。 消毒すると浸みて痛いわけですし、しかもそのためにはお金を出して消毒薬を買わなければならないわけですから、何かしっかりした理由がなければおかしいでしょう。

 おそらく、一般の方が消毒をしている最大の理由は

   「傷を速く治したいから」

に違いないのです。ということは、一般の方は

   「消毒をすると傷が速く治る」

つまり、

   「消毒には傷の治りを速める効果がある」

と信じていることになるのです。


 ところが、これはとんでもない大間違いなのです!

 本当は

   「消毒は傷の治りを妨げる」

言い換えれば

   「消毒は傷の治りを遅らせる」

と言うべきなのです。


 これまでの記事をお読みになってきた方であれば、上の主張も比較的すんなりと受け入れて戴けることでしょう。ですが、世間一般(医療関係者をも含む)の方にこんなことを言えばきっと

   「何を馬鹿げたことを言ってるんだ!」

と怒られるのではないでしょうか。

 それくらい、この神話は私たちの意識に深く根を張っていて、容易に修正できないようになってしまっているのです。


 ですが、誤った神話(「迷信」と言ってもいい)はやはり打破して、正しい認識を広めて行かなければなりません。そこで、わかっていらっしゃる方には些かくどい印象もあろうかと存じますが、この

   「消毒は傷の治りを速める」

という神話が如何に真実とかけ離れているかについて詳しく説明して参ることと致しましょう。


 私たちが傷を負うと、その傷はどのようにして治って行くのでしょうか?

 単純に考えれば、皮下の組織を作っている細胞が盛んに分裂・増殖して、さらにその上を表皮を作る細胞が覆って治癒することになります。

 ところが、この「創傷治癒過程」には大抵の場合、ある重大かつ厄介な段階が必要になるのです。それは、

   「異物の除去」

です。つまり、傷にはほとんどの場合、血の塊とか泥とか砂粒とか死んだ組織とかという邪魔な異物が存在しているので、これを何らかの方法で処理しなければならないのです。

 これは、戦争などで一部壊滅した町の復興を例えに考えればわかりやすいでしょう。町が復興するためには、家屋の再建も必要ですが、その前にしなければならないことがあります。それは

   瓦礫(がれき)の処理

です。それを終えなければ、新たに建物を作ろうにも瓦礫が邪魔をして作業が進まないからです。

 傷の場合も同じです。傷の中に異物が残っていると、いくら時間が経っても傷は治りません。それは異物が創傷治癒を妨げているからです。実際、傷が化膿して膿みが溜まっているような場合は切開排膿しない限り傷は治らないのです。だからこそ、傷を治療する際にはよく洗浄して異物が残らないようにし、血の塊などが生じないように傷を密着させて縫合したりするわけです。そして、傷の一部の組織が死んでいるような場合には、わざわざその部分を切除する(このことを専門用語で「デブリードマン(débridement、フランス語)」と呼ぶ)ことさえするのです。


 さて、そのように考えて参りますと、「消毒」という行為は果たして「傷の治りを速めるもの」と言えるでしょうか? ここに問題があります。

 これまで散々述べて参りました通り、「消毒」とは

   「消毒薬の害毒作用によって細菌を殺滅しようとする行為」

に他なりません。そして、実際には細菌よりも抵抗力の小さい「ヒトの細胞」も殺滅してしまうものなのです。

 そうなりますと、傷に消毒薬を塗ることによって何が起こるかは、実際にしてみなくてもわかります。

 まず、傷口にいた細菌が死んで死骸となり、後に消毒薬(もしくはそれが変化したもの)が残ります。そして、それだけでなく、消毒薬によって死んだ細胞もかなりの数が生じることになるのです。これはどういうことでしょうか?

 消毒する前は、傷口にある異物と言えば細菌のみです。ところが、消毒後は異物が

   細菌の死骸

   消毒薬およびそれが変化した化学物質

   ヒトの細胞の死骸

の分だけ新たに「増えて」しまうことになるのです。これがどうして「傷の治りを速める」ことになり得ましょうか?

 しかも、ヒトの細胞は弱いために、消毒薬が変化して、もはや細菌を殺す力がなくなったとしても、それにヒトの細胞が触れればどんどん死んで行きます。また、ヒトの細胞は他の細胞の助けがなければ生きて行けない存在ですから、ある細胞が死ねば、その隣の細胞も「生きる支えを失って」次々と死んでいきます。その中には当然、傷を治すべく分裂・増殖して行かなければならない組織の細胞も含まれるのです。

 ということは、「消毒」という行為は

   創傷治癒の妨げになる異物を増やす

のみならず、

   創傷治癒に必要な細胞を殺滅する

ということとなり、

   傷の治りを二重に邪魔する行為

と言う他にないのです。

 これを、再び戦争で壊滅した町の復興に例えるなら、消毒するということは、「まだ住める家に毒ガスを撒いて住めなくして、結果として瓦礫の量を増やす」、「復興のために働く人々に毒ガスをかけて殺す」ことをしているのと同じことなのです。如何に恐ろしくも愚かしい「行為」であることか、よくおわかりになることでしょう。


 こんなことを言うと、おそらくは次のような反論が湧き上がってくることでしょう。

   「では、傷口にいる細菌は放置していいのか?!」

 これに対する答えはこうなります。

   「放置するよりは減らした方がよい。ただ、そのためには流水で洗浄する(それで済まなければデブリードマンをする)だけでよく、実際、それくらいしかできることがない」

 確かに洗浄だけで細菌を完全になくすことはできないでしょう。でも、それを言うなら消毒も同様であり、いくら強力な消毒薬を塗りたくっても細菌をゼロにすることなどできないのです(なぜなら、傷口の蛋白質などによって消毒薬の効力が弱められるから)。逆に、消毒すると洗浄では起こらない数々の悪影響が生じることは既に述べた通りです。

 もし、洗浄では落ちないほど組織の深くにまで細菌が入ってしまったら、もはや消毒しても細菌を殺すことはできません。そうなった場合には、ヒトの免疫力に頼るか、さもなければ抗生物質などによって「中から」細菌を攻撃する以外に方法はないのです。


 如何でしょうか?

 ここまで来れば、これまで何の疑問も持たずに消毒をしていた方でもおわかりになるでしょう。

 「消毒」という行為は傷の治りを速めることなどなく、むしろ異物を生み出すことによって治りを遅らせているのです。


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 さて、これで「消毒についての3つの神話」の全てが誤りであることを説明しました。

 つまり、皆さんが「消毒」に対して期待している効果というものが完全に否定されたわけです。こうなれば、もはや「消毒」をし続ける意味は全くありません。

 私たちは古くからの慣習に縛られて、不合理なものでも意味不明なことでも漫然と続けていることがありますが、「傷口の消毒」もまさにその一つです。

 このブログをお読みになった方は、ぜひとも夏井睦先生のホームページ『新しい創傷治療』(※閲覧注意:実際の傷の写真がありますので、血を見るのが苦手な方はご注意ください)http://www.wound-treatment.jp/) をもご覧になって、正しい知識を得てください。

 結論としては、

   「(健常な皮膚の消毒はよいが)

傷口の消毒は無意味かつ有害である」


ということになるのです。


(この項終わり)


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