前回に引き続き、「指先を整形する『手術』」の代表としてご紹介するのは

   『爪床形成法(ソウショウケイセイホウ)』

です。これも前回とりあげた『爪床爪郭弁法』と似ている「手術」なのですが、「爪床部を骨から引き離す」、「骨を削ることもある」などの点で違いがあります。詳細は以下の論文をご参照ください。

   ○ 小坂正明、上石弘 : 巻き爪に対する新しい術式と評価法. 日形会誌、19 : 676 - 681, 1999.

 また、これと非常によく似た方法に『魚口切開法(ギョコウセッカイホウ)』というものもあり、以下の論文で公表されています。

   ○ Suzuki K, Yagi I, Kondo M : Surgical treatment of pincer nail syndrome : Plast Reconstr Surg, 63 : 570 - 573, 1979.


 この『爪床形成法』という手術は読んで字の如く

   爪床を形成する手術

ということです。具体的には、爪床部を一度骨から引き離し、切れ込みを入れて広げ、また骨にくっつけるという方法をとります。その際に骨の一部を平たく削ることもあります。

 文章だけではわかりにくいと思われますので、これも簡略化して図で説明致しましょう。


 まず、手術の邪魔にならないように、下の図1のように

爪床形成法-01

最初に爪を全部抜爪してしまいます。

 次に、図2のように

爪床形成法-02

横に切開を加え、爪床部と骨とを一度切り離します。但し、図では完全に爪床部を切り取っているように見えますが、これは指先の爪がある部分だけです。図ではわかりませんが、指の根元の方ではつながっているものとお考えください。なお、爪床部を切り離す際に、骨が隆起している場合には骨を削って上面を平らにすることもあります。

 そして最後に、図3のように

爪床形成法-03

爪床部の下面に切り込みを入れて左右に広げ、平たく伸ばした状態にして縫合して完了となります。

 これで何となく、この「手術」のイメージがつかめたことと存じます。


 この『爪床形成法』という「手術」は、『爪床爪郭弁法』に比べて手技が簡易であり、問題が少ないように感じられるかも知れません。

 ですが、この「手術」も同様に、いやむしろ、より多くの点で問題があり、やはり

   不適切である

と言う他にないものなのです。


 一つ目の理由は、これも同じく「手術である」ということです。「治療効果が同等なら、手術は保存的治療に劣る」ということについては前回も説明しました。この「手術」で得られる程度の治療効果ならば、他の保存的治療で充分に達成できるのです。

 二つ目は、かなりの長さの爪床部を切り裂いていることです。一応指の根元でつながっているとは言え、爪床部の先端の部分は非常に血の巡りが悪い状態になると考えられます。足の指はただでさえ血液循環が滞り勝ちな部位なのですからなおさらです。そうなると、手術後、傷が治る前に爪床部の先が血行不良に陥り、腐ってしまう恐れがあるのです。特にお年寄りや糖尿病患者などではその危険性が高いのです。そんなことになれば、「巻き爪の方がはるかにマシだった」ということになってしまうわけです。

 三つ目は、手術開始時に全抜爪してしまうことです。以前、「抜爪」という不適切治療について述べた(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/19499082.html)通り、爪を抜いてしまうことは、そのあと生えてくる爪の変形や剥離の原因となり、好ましくないことなのです。この点、前回とりあげた『爪床爪郭弁法』は爪の一部を残しているだけ、まだよい方だったと言えます。この『爪床形成法』では全抜爪が必須となるため、術後、爪が指先まで伸長する間、「指先に体重をかけないようにして歩くこと」といった厄介な「生活上の注意」を守らなければならなくなってしまうことになるのです。さもないと、せっかく「手術」をしたのに、爪が醜く変形してしまって

   「こんなことなら手術なんか受けなきゃよかった!」

ということになりかねないのです。


 以上のことから、この『爪床形成法』(『魚口切開法』を含む)は、『爪床爪郭弁法』よりも不適切とさえ言える「手術」なのです。

 実際にはこれらの『爪床爪郭弁法』、『爪床形成法』、『魚口切開法』を施行している医療機関は非常に少ないと考えられますので、皆さんがこういった「手術」をすすめられることは滅多にないと思いますが、万一すすめられても決して即決はせず、他の医療機関(私の爪専門外来でももちろん結構です)に相談して戴きたいと存じます。


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 さて、これまで色々な「手術」を紹介して参りましたが、どれもこれも

   不適切である

ことがおわかりになったと存じます。


 ですが、実はまだご紹介していない「手術」があるのです。これは現在のところ、

   「巻き爪の標準的手術」

とされており、保険診療で手術をするとなったら、ほぼ間違いなくこの「手術」になると言えるほど普及しているものなのです。

 その「手術」とは

   『鬼塚法(オニヅカホウ)』

に代表される「部分抜爪術」です。

 この『鬼塚法』という「手術」はとても有名で、「巻き爪・陥入爪手術の代名詞」と言ってもいいくらいの存在になっています。しかし、私はこの『鬼塚法』もやはり

   不適切である

と考えているのです。


 この『鬼塚法』については述べるべきことがあまりにも沢山ありますので、ここでは名前の紹介にとどめて、詳しくは項を改めてとりあげることと致したいと思います。


(この項終わり)


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 爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。

  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

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                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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