前回の記事で、私は陥入爪の発生原因は何かという問いに対して、一般に考えられているであろう

   「爪が皮膚のある場所に刺し込まれたから」

という意見をひとまず採用して話を進め、陥入爪を治すためには

   「爪と皮膚のどちらかをその空間から排除すればよい」

という結論を導き出しました。

 そして、現在広く行われている『鬼塚法』という「手術」は、「爪をその空間から排除することによって陥入爪を『治療』しているものである」ことを示しました。

 ここまではご諒解戴けましたでしょうか?


 ですが、以上の話の流れには一つ、大きな飛躍があることも同時に指摘したのを覚えていらっしゃいますか?

 つまり、陥入爪を起こしている部位から排除するのは爪と皮膚のどちらでもよいはずなのに、その検討もせぬまま

   「爪の方を排除すべき」

と決めつけているというおかしな点があるのです。

 ここでなぜ「排除するのが爪でなければならないのか」と問い質したとき、『鬼塚法』を施行している医師はどのように回答されるのでしょうか? おそらく、私が想像するに、

   「そんなことは自明のことだ」

というような答えが返ってくることでしょう。もしくは、「そんなこと、考えたこともなかった」とおっしゃる方もいるかも知れません。

 しかし、これは決して

   自明のことではない

のです。


 一般に、ある場所にAとBという2つのものがせめぎ合っている場合に、そのどちらかを排除しなければならないとしたら、排除するのはどちらにするべきかの判断は何によるのがよいでしょうか?

   「好きな方を残し、嫌いな方を排除する」

   「排除しやすい方を排除する」

などという考え方もあるでしょうが、最も適切な判断はと言えば

   「重要な方を残し、そうでない方を排除する」

ということになるでしょう。


 このように考えますと、陥入爪において爪と皮膚のどちらを排除すべきか判断するには、

   どちらがより重要か

によって判断すればよいことになります。

 如何でしょうか? 患者にとって爪と皮膚とのどちらが重要でしょうか?

 これはもう、考えるまでもなくあからさまにわかり切ったことです。

   爪の方が重要

に決まっています。爪は何も飾りや気まぐれでそこにあるのではなく、重要な機能を果たすために存在しているのですから。


 こう考えてきますと、『鬼塚法』でおこなっている「爪の方を排除する」という判断は甚(はなは)だおかしいということになります。つまり、『鬼塚法』という「手術」は、さして重要でもない皮膚や肉芽よりも、重要な役割を担っている爪の方を排除してしまうという不合理な「治療法」なのです。

 これを、山道での崖崩れ事故に例えて言うならば、次のようになります。

 ある山腹の道の上方で崖崩れが発生し、土砂が道に入り込んでしまったとします。その場合、復旧担当者はどうするべきでしょうか? 言うまでもなく、土砂よりも道の方が重要に決まっていますから、土砂を排除して道を温存することになるでしょう。それをもし、土砂をそのままにして、道の方を撤去するような担当者がいたら即刻クビになるのは間違いないのです。

 『鬼塚法』とは、丁度、土砂の代わりに道を撤去しようとする担当者のように、重要であるはずの爪を排除してしまう方法なのです。これが「正しい治療法」かと聞かれれば、

   断じて否

と答えるより他にありません。


 なぜこのような不合理な方法が、何の疑問も持たれることなく行われ続けてきているのでしょうか?

 私が考えるに、きっとこれには陥入爪に対する根本的な誤解または無理解があるのです。

 陥入爪の発生原因について、以前の記事(http://biso-tsushin.doorblog.jp/archives/16044633.html)で私は「深爪が陥入爪の原因である」と述べました。これは、爪を短く切り過ぎたために爪の行く手に皮膚や肉が張り出してきて、それに爪の先端が衝突するから陥入爪が生じるということを意味しています。

 爪のある場所はもともと爪が占めていた場所であり、そこで爪は自らの役割を果たしてきているのです。その爪のある場所に皮膚や肉芽が張り出してくるから陥入爪が発生するわけです。

 ですから、陥入爪を起こしている部位というのは、本来、爪があるべき場所なのです。そこに皮膚や肉芽が出しゃばってくるから陥入爪になるのです。そうなれば、排除すべきなのは決して爪ではなく、皮膚や肉芽の方であることは明白なのです。それなのに、爪の方を排除しようとするなどというのはまさに

   主客転倒

と言う他にありません。

 『鬼塚法』に携わる医師も、一般の患者も、この陥入爪の発生原理を正しく理解していないと思われるのです。最初に、陥入爪の発生原因についての一般の意見として、

   「爪が皮膚のある場所に刺し込まれたから」

というのを挙げたのも、こういった誤解が一般に広く存在するであろうと考えられたからだったのです。このような誤解があるからこそ、

   「刺さった爪を取り除けばよい」

といった単純な発想に陥ってしまうのであろうと思われるのです。


 では、陥入爪の「正しい治療法」とはどうあるべきかと言えば、もちろん

   「爪を温存し、皮膚を排除すること」

ということでなければならないわけです。そして、現に、そういう治療法がちゃんとあるのです。

 私の「爪専門外来」では、巻き爪を伴わない陥入爪に対しては、このような「爪を温存して皮膚や肉芽を排除する」方法である「溝形成法」という治療法を施行しています。


 結論としては、『鬼塚法』という「手術」は、陥入爪に対しても主客転倒で不適切な「治療法」であるということになるのです。


(続く)


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