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『居候の原理』

 居候が家族ともめ事を起こした場合には居候を排除して家族を守るべきであるのと同様に、陥入爪においては肉芽を排除して爪を守るべきである。

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 ある日、遠い親戚に当たる男が窶(やつ)れ果てた姿でいきなり家にやってきて、

   「何か食わしてくれぇ~!」

と言うなり、玄関に倒れ込んでしまいました。

 一応、他人でもないということもあり、仕方なく家に上げて残り物を振る舞いました。ところが、男は食うだけ食っても家から出て行こうとしません。聞けば、「アパートを叩き出されて、もう帰る家がない」と言うのです。その日はもう夕方遅くなっており、やむを得ず男を空いている部屋に泊めることにしました。

 翌日早々、男の家族に連絡を取ろうとしましたが、どこもかしこも電話がつながりません。どうも、かなり前に一家離散していて、今は子供とも音信不通状態になっているようです。

 困り果てて警察に連絡しましたが、「家族なんだからそちらで面倒を見てください」と言われるばかりでした。


 そんなこんなで、とうとう男は居候となって家に居着いてしまいました。元々、一家離散に至るくらいですから怠け者で性格も悪く、しかも短気で腕力だけはあるものですから、家族は気が休まる暇がありません。

 そのうち、こともあろうに男は家族の娘に目を付けてしまい、娘に馴れ馴れしく付きまとったり、娘のいない間に部屋に入り込んで物色したりするようになりました。そして、男が夜、娘の部屋に押し入ろうとするに至って、流石に我慢も限界に達しました。


 さて、こんな場合、あなたならどうするべきだと思いますか?

 まさか、

   「男に好き放題やらせて、家族は縮こまって過ごすべきだ」

などと考える方はいらっしゃるまいと思います。当然、

   「そんな居候は叩き出すべきだ」

ということになるでしょう。


 陥入爪における爪と肉芽との関係は、丁度、この「家族」と「居候の男」との関係に例えられるのです。

 深爪をしてしまったばっかりに、爪の行く手に肉が出しゃばってくる余地を与え、その結果として爪の先端が肉に衝突して陥入爪が発生するわけなのですが、その肉は本来そこにあるべきものではなく、爪のあるべき場所に勝手に張り出してきているものに過ぎない存在なのです。つまり、陥入爪で爪が食い込んで腫れている肉芽というのは、爪からしてみれば「勝手に入って来やがった居候」のようなものなのです。


 そうなると、その陥入爪の状態を解決するためにはどうすればよいでしょうか?

 もはや爪と肉芽とがその場所に共存しえないとなった場合、そのどちらかを排除しなければならないわけですが、あなたなら、どちらを排除するべきだとお考えになりますか?

 ここまで言えば、よもや

   「肉が張り出して来られるように、爪の幅を縮めるべきだ」

などとお答えになる方はいらっしゃらないでしょう。当然、

   「肉を排除して、爪の幅を確保すべきだ」

と考えるのが正しいわけです。


 ところが、現在、陥入爪の「標準的手術」とされているのは『鬼塚法』という、「肉よりも爪を排除する方法」になってしまっているのです。

 これではまるで、家族が居候を恐れる余り、奥の部屋に引っ込んでしまうようなものです。

 なるほど、確かに陥入爪は治るかも知れません。ですが、こんな方法は

   「庇(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られる」

ようなもの、あるいは藤子不二雄Ⓐの漫画『魔太郎がくる!!』に出てくる『ヤドカリ一家』(*)の話のようなものです。


 爪と肉芽と、いったいどっちが大事かと言えば文句なく

   爪の方が大事

に決まっているのです。いくら陥入爪を治すためとは言え、その貴重な爪を犠牲にしてしまう『鬼塚法』という「手術」は、やはり不適切であると言う他にないのです。


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 『ヤドカリ一家(いっか)』というのは、本文でも述べた通り、藤子不二雄Ⓐの漫画『魔太郎がくる!!』の『うらみの119番: 不気味な侵略者』に登場する家族のことです。この家族は、たまたま知り合っただけの他人の家に図々しく上がり込んで、徐々にその家を乗っ取ってしまうという恐ろしい一家なのです。詳しくお知りになりたい方は「魔太郎がくる ヤドカリ一家」で検索してみてください(但し、胸糞注意)。

 この話は、ヒュー・シーモア・ウォルポール(Hugh Seymour Walpole) の『銀の仮面(The Silver Mask)』という小説が元になっているとのことで、有名な安部公房の『闖入者(ちんにゅうしゃ)』、『友達』も、これを元にした話だそうです。


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                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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