この項の最後として、

   アクリル人工爪法

というものを挙げたいと思います。これは、アクリル樹脂にて「人工の爪」を作成するという方法であり、東禹彦(ひがし・のぶひこ)著『爪 ー 基礎から臨床まで ー』(ISBN 4-307-40038-0)という爪医学の専門書において最も推奨されている陥入爪治療法です。おそらく、東先生の「東皮フ科医院」では主にこの方法を用いていらっしゃるのでしょう。

 そこで私もこのアクリル人工爪法を

   陥入爪の優れた治療法

として紹介致したいところなのですが、残念ながらそうはいきません。東先生の『爪』という本は、他に類書のない極めて優れた医学書であり、私はこの本によって爪医学を学習することができたとさえ言えるくらい貴重なものであるわけなのですが、ことこの「アクリル人工爪法」に関する扱いだけには賛同致しかねるところがあるのです。

 私は、このアクリル人工爪法も理に叶った治療法であるとは考えています。ですが、それを実行するに当たって数々の難点があり、必ずしも優れているとは言えないため、「不適切でない」治療という位置付けにせざるを得ないのです。なぜか? それをおわかり戴くために、まずアクリル人工爪法について具体的に説明致しましょう。


 アクリル人工爪法とは、次のような方法です。


アクリル人工爪法

1.人工爪作成用のアクリル樹脂セット(ネイルケア用品売り場で入手可能)を用意する。

2.陥入爪部位の肉芽をどけるか取り除くかして、爪の縁を露出させ、その爪の下(つまり爪と皮膚との間))にプラスチックフィルムを挿入しておく。

3.アクリル人工爪を作る予定の爪の一部にプライマー(アクリル樹脂を固着させるための薬液)を塗る。

4.調製したアクリル樹脂液を爪とフィルムの上に塗り、指先までアクリル樹脂が板状に伸びるように形を整えて、硬化させる。

5.フィルムを取り除いて、でき上がったアクリル人工爪をヤスリなどで削って形を整える。


 つまり、アクリル人工爪法とは、アクリル樹脂を使って爪を指先まで延長しようという方法なのです。

 これまで、このブログで何度も言及している通り、陥入爪は爪が短すぎるために生じるものなのですから、この方法がうまく行われて爪が指先まで延長されれば、陥入爪症状は治まり、しかも見た目も美しく仕上がるという、誠にいいことずくめの方法と言えるでしょう。


 ですが、私自身は陥入爪に対してこの方法は施行しておりません。なぜなら、次に挙げるような数々の難点があるからです。

アクリル人工爪法の難点

1.手技がやや難しく習得するのに訓練を要する。

2.時間が長くかかるため、効率が悪く、外来診療に向かない。

3.アクリル樹脂セットに含まれるアクリルモノマーとプライマーにはかなりの悪臭があり、換気をよくする必要がある。また、アクリルモノマーは人体に有害であり、皮膚に大量に付着すると神経障害を起こすことがある。

4.アクリル樹脂セットは、開封すると長期間の保存が困難であり、かなり頻繁に使う状況でないと、使わないうちに劣化して無駄になってしまう。

5.手技に使うフィルムや筆、ヘラなどの用具にアクリル樹脂がついたまま硬化してしまうと除去することができないため、用具が使い捨てになりやすく、非経済的である。

6.陥入爪になった爪の縁は、肉に埋もれて水にふやけていることがほとんどであり、例えプライマーを塗ったとしても、通常の爪に対するほどアクリル樹脂が強力に固着するとは考えられない。

7.アクリル樹脂は硬化すると弾力に乏しいため、例え爪に固着しても指先に力が加わると容易に割れたり脱落したりしやすい。そうなってしまうと、また初めからやり直しになってしまう。


 以上のように、アクリル人工爪法には、実際に運用する上での障害が少なからずあるのです。


 ただ、この方法には

   仕上がりの外観が美しい

という長所もあり、その点では他の治療法よりも優れているのです。ですから、見た目に特にこだわる方にとっては最高の治療法と言えるかも知れません。もし、この方法に熟達していて、日常的に盛んに施行している医療機関であれば、受けるのも決して悪くありません。


 私自身は自分の「爪専門外来」ではこの方法を行っておりません。これから新規に爪治療を始めようという医師にも、おそらくおすすめはしないだろうと思います。

 では私はどうしているのかと言えば、見た目こそアクリル人工爪法に劣るものの、他の点ではいずれも優れている方法を採用しているのです。それは

   「溝形成法(ミゾケイセイホウ)」

という治療法です。現在、総合的に考えて、

   この方法に勝る陥入爪治療法はない

と断言できます。この「溝形成法」こそが、最も適切な陥入爪の治療法なのです。


 「溝形成法」については述べるべきことが山ほどありますので、また項を改めてとりあげようと思います。

 皆さんには、ここで挙げた数々の方法の特徴と限界をご理解され、治療法の選択にお役立てくださいますよう
お願い申し上げます。


(この項終わり)


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  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

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                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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