最初にとりあげるのは「爪甲剥削術」というもので、これは爪甲、つまり爪の中央部をヤスリなどで薄く削るという方法です。
ですが、これだけでは何のことだかわかりにくいでしょうし、第一、
「それがどうして巻き爪の治療になるのだ?」
という疑問が生じてもおかしくないでしょう。
これまでの記事をお読みになってきた方であれば、「爪を薄くすること」が「巻き爪の改善につながる」という理屈も察しがつくことかと存じますが、一般の方にはなかなか納得がいかないことであろうと思います。
そこで、この治療の意味合いを理解するために、
そもそも巻き爪はどうして生じるのか
について再確認しておくことと致しましょう。
まず大切なことは、爪には元々
丸く巻いていく性質(傾向)がある
ということです。これは、皮膚科などの医学書にもどういうわけか記載されていないことですが、事実です。この性質があるからこそ、爪は指によく密着して生えることができるわけです。
ですが、この性質があるため、爪の形を理想的に保つには
爪を平たくする力が必要
であるわけです。そうでなければ、爪は際限なく丸く巻いていってしまうからです。私たちの爪が現在の形になっているのは、「爪の巻いていく力」と「爪を平たくする力」との相互作用の結果なのです。
では、その「爪を平たくする力」とは何かと言えば、それは
指の腹にかかる圧迫力
であり、足の指に関して言えば
指にかかる体重
ということになるのです。
だからこそ、指に体重のかかる機会の多い人力車夫などでは足の爪が平たくなり、逆にほとんど歩くことのない高齢者などでは巻き爪になりやすくなるのです。
以上のことを図で改めて説明しましょう。
指の腹に圧迫力が加わると、下の図のように、指の肉が押し上げられて爪の縁に押し上げる力が伝わります。
この力が爪を平たくする力として働くわけです。爪の丸く巻いていく性質と、この力とが爪の形を決める要素になっているのです。
ですから、「爪の丸く巻いていく性質」が弱い場合、もしくは「爪を平たくする力」が強い場合には、爪は平たくなり、時には反対側に反ってしまうことさえあるのです。
このことから考えれば、巻き爪を改善するにはどうすればよいかもわかります。つまり、
「爪の丸く巻いていく性質」を弱める
か、または
「爪を平たくする力」を強める
かすればよいのです。
今回とりあげる「爪甲剥削術」というのは、爪を薄く削ることによって
「爪の丸く巻いていく性質」を弱める
処置であったわけです。
「爪甲剥削術」がどうして巻き爪の治療手段になりうるのか、これでおわかり戴けたことでしょう。
ですが、私はこの「爪甲剥削術」が巻き爪の治療手段として優れているとは考えていません。なぜなら、この治療法には次に挙げる二つの難点があるからです。
一つは、
「爪を平たくする力」がなければならない
ということです。これは考えてみれば当然のことです。なのに、実際の患者においては、この「爪を平たくする力」がほとんど期待できない場合が多いのです。つまり、足の指にかかる圧迫力がなければ「爪を平たくする力」も生じないわけで、
寝たきり状態の人
ほとんど歩かない人
外反母趾の人
ハイヒールやミュールなどをよく履く人
などでは足の指に有効な圧迫力がほとんどかからないため、「爪を平たくする力」も生じようがなく、「爪甲剥削術」をしても意味がないのです。
もう一つの難点は、
巻き爪の程度が軽い場合にしか効果がない
ということです。これは図で説明した方がわかりやすいでしょう。
まず、巻き爪の程度がごく軽度で、ほとんど正常と違わないくらいであれば、下図のように爪の縁に「押し上げる力が加わり、爪が平たくなることが期待できます。
ですが、巻き爪の程度が進行し、爪の縁が内側へ巻き込んでしまっていたら、下図のように、例えどんなに指に圧迫力を加えても爪を平たくする作用は期待できないばかりか、さらに進行してしまうことさえあるのです。
つまり、この「爪甲剥削術」は
ごく初期の巻き爪にしか効果がない
ということなのです。そうなると、実際に長いこと巻き爪に苦しんでいる大部分の患者にはほとんど適用できないことになってしまうわけです。
以上の理由から、私はこの「爪甲剥削術」を単独で巻き爪の治療として行ってはおりません。もし行うとすれば、他の巻き爪治療法の補助的手段として「より容易に巻き爪を矯正するため」に施行するくらいです。実際、爪が分厚くて硬いような場合には、薄く削って変形しやすくした方が治療が早く終わることが多いのです。このような補助的処置としてであれば、この「爪甲剥削術」も有用であると言えるでしょう。
ですが、他に何の処置もせず、ただ爪を薄く削るだけで経過観察している場合には、なかなか改善が見込めないと思われますので、もし皆さんがそのような治療を受けていらっしゃるなら、他の治療法を検討されることをおすすめ致します。
(続く)
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爪専門外来について診療・相談ご希望の方は、どうぞ下記のホームページをご参照の上、電話にてお問い合わせください。
医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/
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また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。
医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com
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ですが、これだけでは何のことだかわかりにくいでしょうし、第一、
「それがどうして巻き爪の治療になるのだ?」
という疑問が生じてもおかしくないでしょう。
これまでの記事をお読みになってきた方であれば、「爪を薄くすること」が「巻き爪の改善につながる」という理屈も察しがつくことかと存じますが、一般の方にはなかなか納得がいかないことであろうと思います。
そこで、この治療の意味合いを理解するために、
そもそも巻き爪はどうして生じるのか
について再確認しておくことと致しましょう。
まず大切なことは、爪には元々
丸く巻いていく性質(傾向)がある
ということです。これは、皮膚科などの医学書にもどういうわけか記載されていないことですが、事実です。この性質があるからこそ、爪は指によく密着して生えることができるわけです。
ですが、この性質があるため、爪の形を理想的に保つには
爪を平たくする力が必要
であるわけです。そうでなければ、爪は際限なく丸く巻いていってしまうからです。私たちの爪が現在の形になっているのは、「爪の巻いていく力」と「爪を平たくする力」との相互作用の結果なのです。
では、その「爪を平たくする力」とは何かと言えば、それは
指の腹にかかる圧迫力
であり、足の指に関して言えば
指にかかる体重
ということになるのです。
だからこそ、指に体重のかかる機会の多い人力車夫などでは足の爪が平たくなり、逆にほとんど歩くことのない高齢者などでは巻き爪になりやすくなるのです。
以上のことを図で改めて説明しましょう。
指の腹に圧迫力が加わると、下の図のように、指の肉が押し上げられて爪の縁に押し上げる力が伝わります。
この力が爪を平たくする力として働くわけです。爪の丸く巻いていく性質と、この力とが爪の形を決める要素になっているのです。
ですから、「爪の丸く巻いていく性質」が弱い場合、もしくは「爪を平たくする力」が強い場合には、爪は平たくなり、時には反対側に反ってしまうことさえあるのです。
このことから考えれば、巻き爪を改善するにはどうすればよいかもわかります。つまり、
「爪の丸く巻いていく性質」を弱める
か、または
「爪を平たくする力」を強める
かすればよいのです。
今回とりあげる「爪甲剥削術」というのは、爪を薄く削ることによって
「爪の丸く巻いていく性質」を弱める
処置であったわけです。
「爪甲剥削術」がどうして巻き爪の治療手段になりうるのか、これでおわかり戴けたことでしょう。
ですが、私はこの「爪甲剥削術」が巻き爪の治療手段として優れているとは考えていません。なぜなら、この治療法には次に挙げる二つの難点があるからです。
一つは、
「爪を平たくする力」がなければならない
ということです。これは考えてみれば当然のことです。なのに、実際の患者においては、この「爪を平たくする力」がほとんど期待できない場合が多いのです。つまり、足の指にかかる圧迫力がなければ「爪を平たくする力」も生じないわけで、
寝たきり状態の人
ほとんど歩かない人
外反母趾の人
ハイヒールやミュールなどをよく履く人
などでは足の指に有効な圧迫力がほとんどかからないため、「爪を平たくする力」も生じようがなく、「爪甲剥削術」をしても意味がないのです。
もう一つの難点は、
巻き爪の程度が軽い場合にしか効果がない
ということです。これは図で説明した方がわかりやすいでしょう。
まず、巻き爪の程度がごく軽度で、ほとんど正常と違わないくらいであれば、下図のように爪の縁に「押し上げる力が加わり、爪が平たくなることが期待できます。
ですが、巻き爪の程度が進行し、爪の縁が内側へ巻き込んでしまっていたら、下図のように、例えどんなに指に圧迫力を加えても爪を平たくする作用は期待できないばかりか、さらに進行してしまうことさえあるのです。
つまり、この「爪甲剥削術」は
ごく初期の巻き爪にしか効果がない
ということなのです。そうなると、実際に長いこと巻き爪に苦しんでいる大部分の患者にはほとんど適用できないことになってしまうわけです。
以上の理由から、私はこの「爪甲剥削術」を単独で巻き爪の治療として行ってはおりません。もし行うとすれば、他の巻き爪治療法の補助的手段として「より容易に巻き爪を矯正するため」に施行するくらいです。実際、爪が分厚くて硬いような場合には、薄く削って変形しやすくした方が治療が早く終わることが多いのです。このような補助的処置としてであれば、この「爪甲剥削術」も有用であると言えるでしょう。
ですが、他に何の処置もせず、ただ爪を薄く削るだけで経過観察している場合には、なかなか改善が見込めないと思われますので、もし皆さんがそのような治療を受けていらっしゃるなら、他の治療法を検討されることをおすすめ致します。
(続く)
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医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/
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医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
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