次にとりあげるのは、アルミニウムやステンレスなどの金属片を爪の先端に装着して爪を直接矯正しようとする方法です。

 具体的には、金属板などを爪の先端に嵌められるような形に折り曲げ加工して、それを巻いている爪の先端にかぶせて固定します。それにより、板バネのような「平たくする力」を爪に加えることになるので、爪が平たく矯正されるという理屈です。

 実際には、アルミ缶を切って自作するとするという方法もあれば、すぐに爪に付けられるように加工されている器具も販売されていますが、共通する点は

   爪の先端に装着する

というところにあります。

 一見、理に叶っていて優れた方法のように感じられます。ですが、この方法も幾つかの難点があり、やはり「不適切でない」という評価にとどまらざるを得ないのです。


 この治療法の難点は、次のように整理することができます。

   1.金属の化学的な問題

   2.金属板の物理的な問題

   3.装着する爪の問題

 以下に、順番に説明して参りましょう。


1.金属の化学的な問題

 上で例に挙げましたように、この治療法で用いる金属片はアルミニウムやステンレスなどの、比較的入手しやすく、一般の人にも容易に加工できる金属でできていることが大部分です。

 爪とはいえ、人体に長期間装着することを想定するわけですから、人体に有害であってはなりません。その点で、アルミニウムやステンレスはやや難があると言わざるを得ないのです。

 まず、アルミニウムについてですが、一円玉やアルミホイルなどによく使われていて身近にあるだけに、人体にも安全だという印象を持つ方が多いと思います。ですが、アルミニウムはかなり反応性に富んだ金属であり、人体に悪影響がないとは言えないのです。実際、アルミニウムは塩酸にも水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)にも容易に溶けますし、日の丸弁当(ご飯の真ん中に梅干しを置いたもの)をアルミの弁当箱に入れておいたら、梅干しの所だけが薄くなってとうとう穴が開いてしまったという話も聞かれます。ですから、足の爪の先端といった、高温多湿の環境が続く条件に置いておけば、変質してしまう可能性が少なくないのです。そうなれば、足の皮膚に刺激がかかって皮膚炎などを起こす危険があると考えられます。

 ステンレスの場合にはアルミニウムのように変質する可能性は低いと考えられますが、現在のほとんどのステンレスにはニッケルが入っており、これは金属アレルギーを起こす頻度が最も高いことがわかっています。ですから、これも長時間皮膚に接する器具として使うのはおすすめできません。

 つまり、この治療法で用いる金属は、人体にできるだけ無害なものでなければならないのです。

 金属の中で最も人体に無害なのはタンタルであり、人工関節や人工骨頭に使われます。ですが、タンタルなど一般の人にはなかなか手に入りませんので、それ以外に人体に害の少ないチタンなどが好ましいと言えます。現に、歯列矯正に用いる針金はチタン合金でできています。それと同様に、この治療法で使う金属片はチタン合金製のものが望ましいでしょう。

 私が現在、巻き爪治療に必要不可欠と考えている『マチワイヤ』という形状記憶合金製の針金があるのですが、その開発者である町田英一(まちだ・えいいち、『マチワイヤ』の名はこの先生の姓から来ています)先生が最近新たに開発された

   『マチクリップ

という器具は、この条件を満たしており、素材という点においては優れていると言えます。


2.金属板の物理的な問題

 次に、金属板の性質を考えた場合、この治療法に適用するのに不都合な面があるのです。

 この治療法に適していると言うためには、以下の2つの条件を同時に満たさなければなりません。

   A.爪に矯正力を充分に加えられるほどの弾力があること

   B.切削・折り曲げ加工がしやすいこと

 ところが、この2つの条件は往々にして矛盾するのです。

 弾力が強い金属と言えば、ピアノ線やバネが思い浮かびますが、こういった金属は切ったり削ったりすることが困難ですし、曲げてもすぐに元に戻ってしまうので、折り曲げ加工が非常にしづらいのです。逆に、加工が容易な金属というのは柔らかくて簡単に曲がる性質を持っていますから、爪に装着しても爪の形に曲がるだけになってしまい、爪を平たくする力を保つことができないわけです。

 つまり、簡単に爪に合うように金属片を加工できる素材では装着しても効果が期待できず、効果がありそうな弾力の強い金属は加工が困難で使用できないということになりがちなのです。

 これでは、この治療法自体の有用性がほとんど認められません。

 例外としては、すでに紹介した『マチクリップ』というものがあり、これは爪の大きさ・厚さに応じて幾つかのタイプが作られていて、その中で合うものを選べますので、上に挙げた難点はほぼ解消されています。


3.装着する爪の問題

 最後に、金属片を装着する爪にそもそも問題がある場合があり、これが、この治療法をおすすめできない最大の理由になっているのです。これは、上2つの問題を回避している『マチクリップ』ですら免れない難点です。

 巻き爪で苦しんでいる患者は、ほとんどの場合、痛みや出血、腫れ、排膿などを訴えて受診されます。中には、爪の変形だけを苦にして来院される方もいますが少数派です。

 つまり、巻き爪の患者の大部分は

   陥入爪を合併している

のです。これがどういうことを意味しているかおわかりになれば、この治療法が現実に甚だ価値の低いものであることに納得して戴けるでしょう。

 陥入爪は、これまでの記事でも言及してきました通り

   深爪が原因で起こる

ものです。つまり、

   爪が短すぎる状態

にあるのです。しかも、痛みを軽くしたいがために医療機関やもしくは自分自身の手で爪のカドを斜めに切り込んでしまっている例も少なくありません。

 そんな状態では、爪の先端に金属片を装着しようにも

   爪が短すぎて付けられない

場合が多く、しかも爪のカドが斜めに切り落とされていると、爪の先端は爪の中央部のわずかしかないことも多く、そうなると

   金属片を装着しても意味がない

ことになりかねないのです。

 さらに、爪が肉に埋もれてふやけていたりすると、爪がもろくなっていて、金属片を装着してもすぐに爪が崩れて外れてしまうことが多いのです。

 実際には、爪の先端がギザギザになっていたり、2枚に剥がれていたり、水虫で白く濁って崩れていたりして、金属片を装着しようにもどうにもならない例も頻繁に見られます。

 こういった現実を考えますと、この治療法がうまく適用できる患者はかなり限られてしまうのです。

 「よい治療法」として皆さんにおすすめするからには、それが

   大部分の患者に適用可能

なものでなければならないと私は考えております。


 以上の理由から、私はこの「爪の先端に金属片を装着する方法」は、やはり「『不適切でない』治療」という位置付けにせざるを得ないのです。

 もし、爪が充分に伸びていて、爪の先端も充分に丈夫であれば、この治療法を受けるのも悪くないと考えますが、そうでなければおすすめできません。現に、私の爪専門外来でもこの方法は行っておりません。もっと有効で適用範囲の広い治療法があるからです。

 皆さんがもし、この治療法を施行されていらっしゃるならば、その効果が費用や時間に比べて小さすぎないかどうかお考えになることをおすすめ致します。



(続く)



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  医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル ホームページ: http://www.fureai-g.or.jp/fhh/

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 また、私個人へのメールによる問い合わせにも対応致しますので、ご希望の方は下記メールアドレス宛にご送信ください。ただし、職務の都合上、返信に日数を要することがありますので、ご諒承ください。

                             医療法人健齢会 ふれあい平塚ホスピタル 内科 宮田 篤志
                             メールアドレス: miyataatsushi8@gmail.com



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