今回とりあげる治療法は、前回の「爪の先端に金属片を装着する方法」とかなり共通するところがあります。そして、これもやはり「不適切でない」という評価にとどまらざるを得ないのです。ただ、そういう評価になってしまう理由はやや異なります。

 この「爪の両縁に弾性板を装着する方法」というのは、曲げても直線状に戻る性質を持った弾性板の両端をフック状に加工して、爪の両方の縁に引っかけることによって爪に装着する方法です。そうすれば、弾性板が直線状に戻る力によって巻き爪が平たく矯正されるという理屈です。

 この方法に使用される素材は弾性のある板であればいいわけなのですが、フック状に加工するためには折り曲げ加工ができなければなりませんので、実際には金属に限られます。私の知る限り、これに該当する素材は

   『ゴールドシュパンゲ(Goldspange)』

という名のドイツ製の爪矯正用具くらいしかありません。これは、文字通り金色の金属板であり、曲げても元に戻る弾性を備えています。これを爪の形態に合わせて加工して装着するわけですが、それには技術を要するらしく、専門の講習会が開催されています。ただ、後述の『VHO(Virtuose Humane Orthonyxie)法』などと異なり、講習を受けなければ施行が許されないということはありません。(私は使用していませんし、使用の必要もないので、講習は受けておりません。)

 理屈から言えば、この方法もなかなか有効な治療法のように感じられてもおかしくありません。ですが、それでも私はあまりこの方法をおすすめすることができないのです。なぜなら、次に挙げる3つの難点があるからです。


1.爪の両端に力が集中すること

 上で述べた通り、この方法は爪の両端に金属のフックをかけて引き上げるというものですので、爪のフックがかかる部位に強い力が集中してかかることになります。ですから、この方法がうまくいくためには爪の両端の部分が充分に硬くて丈夫でなければならないのです。さもないと、フックを引っかけたところがもげてしまうことになりかねないからです。

 ですが、実際には、巻き爪で苦しんで医療機関を受診される方はほとんどの場合、陥入爪を合併していて、爪の両端は肉に深く食い込んでいることが多いのです。

 そうなりますと、フックをかけようにも爪の両端を露出させることすら困難であり、しかもその部分の爪は水を吸ってふやけているので、とても脆い状態にあるのです。

 ですから、この方法は現実の患者に適応するのは困難であり、苦労して施行したとしても爪の縁が崩れて弾性板が脱落してしまうことになりやすいのです。そうなってしまうと、爪の縁がギザギザになってしまい、その後の治療も困難になってしまいます。


2.矯正力が持続しにくいこと

 この方法では、「曲げても直線状に戻る性質」を持った金属板の両端をフック状に折り曲げて爪に引っかけるということになるのですが、実は、ここにはある重大な矛盾があるのです。それは、

   曲げても直線状に戻る性質(弾性)


   フック状に折り曲げられる性質(可塑性)

とは、互いに相反する性質であるということです。つまり、現実にはどちらかの性質を犠牲にしなければならないということになるのです。

 実際には、板バネのように折り曲げ加工が困難な性質では使い物になりませんので、どうしても弾性の方をある程度犠牲にして、折り曲げ加工が容易にできるようにしなければなりません。となると、

   肝心の治療効果が期待できない

ということになってしまうのです。つまり、装着しても爪の形に沿って曲がったまま元の直線状に戻らなくなってしまうことになりやすいのです。これは巻き爪が高度で、ほぼ円筒状になってしまっているような場合に起こりやすい現象です。これでは、高い料金をかけて装着する意味が乏しいと言わざるを得ません。


3.矯正が進むと自然に脱落すること

 これは、仮にこの治療法が有効であっても避けられない本質的な欠点と言えるものです。

 巻いている爪にぴったり合うように弾性板を作ると、円弧状になった爪の外側から覆う形になりますので、必要となる弾性板の長さは

   爪の幅より少し長くなる

ことになります。

 これは、円筒状のものを紙などでくるむ場合を考えればわかりやすいでしょう。つまり、包む紙の長さは、円筒の円周の長さでは足りず、少し長くなければ隙間ができてしまうのです。これは、包む紙の厚さが厚ければより顕著となります。

 『ゴールドシュパンゲ』に代表される弾性板も、当然ながら厚さがありますから、爪の幅よりも少し長くなければ爪の両端まで届かないわけです。ここまではおわかり戴けたでしょうか?

 では、次に、巻き爪が幸いにもうまく矯正されて平たく平面状になったとします。そうなった場合に、爪の両端に届くために必要となる弾性板の長さはどうなるでしょうか。これは考えてみればすぐわかる通り、

   爪の幅と同じ

でよいことになります。

 つまり、巻き爪が矯正されて平たくなると、必要となる弾性板の長さが短くて済むようになるわけです。ですが、弾性板は爪の状態に応じてゴムのようにひとりでに縮んでなどくれません。するとどうなるかと言えば、巻き爪が矯正されると

   弾性板の長さが余る

ことになり、そのうちフックが外れて

   自然に脱落してしまう

ことになるのです。

 こういう現象が起こるため、実際に『ゴールドシュパンゲ』などを装着する際には接着剤などで爪に固着させる処置も行うわけですが、それでも自然脱落を完全に防ぐことはできません。

 ですからこの治療法では、例え効果が現れてもそれが充分に発揮される前に自然脱落して失敗してしまう危険が必ずつきまとうのです。


 以上の3つの点から、私はこの治療法もあまり優れた方法と考えてはおりません。ですが、もし巻き爪の程度があまりひどくなく、爪の両縁が充分に丈夫であれば、この方法を試みるのも悪くはありません。ですから、この方法は、かなり軽症の方に適しているものと言えます。巻き爪の程度が強い方や、陥入爪を合併している方には適さないと考えますので、もし、それにもかかわらずこの方法をすすめられた場合には、即決することなく、よく検討されることをおすすめ致します。



(続く)



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